File No.053Anti I.Sさん work:REISM(株)リノベーション事業部

相反する材質を用いた「Anti」は
経年変化も味になる。

今回の舞台は、トレンドに敏感な人たちに人気の街にある「Anti/アンチ」の部屋。

アンティークな洋館を意識した空間は、木の腰壁が目を引く、重厚さ漂うデザイン。
インパクトのある分厚いコンクリートの梁は斜めのフォルムがなんとも個性的。
温かく灯る乳白ガラスの照明がビンテージ感を増し、ムーディな空間を演出している。
壁ライトが灯るスペースにデスクを置けば、小さな書斎のように使える、心落ち着く一角ができる。

「壁の漆喰に、腰板や床の木材、そしてコンクリート。相反し、反転する素材を用いることで部屋のテーマである 『Anti』を表現しています。」

すべての素材がバランスよく配置され、相反するテイストながらも調和のとれた美しい世界観。
さらに、経年変化の使い込まれた味わいも楽しめるアンティークテイストな空間。
限られたスペースのなかに深くて広いテーマを秘めている。

何を隠そう、REISMのリノベーション物件にはSさんが手がけた部屋が多く存在する。

今回は、リノベーションのプロであるREISMスタッフが実際に自身で手掛けた物件住んでみたケースをご紹介。

さて、自分の作品に暮らした実感や住みこなし方は、どんな感じだろう?

玄関からリビングへと続く木製フレームのドアにはガラスがはめ込まれているので視覚的に圧迫感がなく、広々とした印象に。コンパクトながら収納力抜群のクローゼットスペースは、横に姿見を置けばスマートに使うことができる。徹底的に住みやすさを考えて作られた設計。

リビングからドアを出て玄関となりにあるのはキッチンスペース、バスルームなどの水回り。ドアを隔ててセパレートしているので、リビングスペースとのゾーニングがくっきりとできる。バスルームの脱衣所には洗濯機をラクラク置け、必要なものは棚上に機能的に収納。流れるような動線で、快適に暮らせる工夫がいっぱいだ。



自ら手掛けた空間とともに、
成長しながら暮らす楽しさ。

「引っ越しをするにあたり、せっかくだからこのAntiに住みたいと思っていました。工事の管理やプランニングから間取りを考えたりと多岐にわたってこの部屋の設計・建築に携わっているので自分の子供のように感じていることもあって…。」

長年使い込まれたような木材を使うことで、「Antique/アンティーク」の要素もプラス。
ここに暮らす人が経年変化の味わいとノスタルジーを楽しみながら、時の流れとともに共存・成長できる空間となっている。

「二十一平米もないコンパクトな部屋なので、いかに広く見せるか?が腕の見せ所だったので、燃えました。」

基本として、インテリアの色味や素材はすべて同系で揃える。
背の高い家具は一切置かず、すべての家具を低めに統一。
高さを一直線にして合わせ、目線を上へと逃がし部屋を広く開放的に感じさせている。

さらに、ひとつの部屋の中でスペースごとに役割を持たせることで生活や心の変化をつけているというから驚き。

ワーキングデスクがある壁は「生/動」のサイド。
フレッシュな植物を置き、仕事や勉強などの「生きた活動」をするエリアとして構成。

ベッドやソファがある壁は「死/静」のサイド。
ドライフラワーを効果的に飾り、ぐっすりと眠ったり、ソファでリラックスしたり「静かに休む」エリアとして構成。

なるほど、参考になるスゴ技!
暮らし方に一工夫加えるだけで、毎日のルーティンさえも真新しく感じ、もっと楽しくなるのだということを教わることができた。

リノベーションのプロの手によって、これからも部屋はどんどん進化し育っていく。
経年変化と一緒に、もっとずっと暮らしやすい空間へ。

腰板に板を載せただけで、しっかりとしたワーキングデスクに。板にはアマニ油の塗料を塗り、周りの色調と質感を合わせている。ぬくもりあふれる質感とフォルムのビンテージ・ガラステーブルは、リラックスタイムに欠かせないアイテム。どちらも、静エリアと動エリアを象徴するデスクたち。

本や日常的に使う雑貨などは、棚の中に見やすく機能的に収納。本の背表紙は色の情報量が多く部屋全体の色味がバラバラになってしまうため、手持ちのカーテンを用いて目隠し。棚の上には薄手のタイルを載せ、スッキリとした印象に仕上げた。趣味であるカメラ、写真をはじめ照明、スピーカー、和紙職人のオブジェ、フラワーベースなどを置けば、インテリアスペースとして美しく機能。



これからしたいこと、できること。
全てが未来の自分の糧になる。

「マンションの廊下に面しているキッチン窓をエコカラットにして閉じてしまおうかと。さらに玄関の壁にもハメコミアートを入れて見た目を楽しくする予定。賃貸でも自由気ままに色々できるっていう裏技をこれからどんどん披露していきたいと思っています。」

また、調理などでキッチンの壁面が汚れたら、同じ品番の塗料を探して塗ればキレイに元通り…などなど、部屋作りのプロが住むと物件はこのように楽しくかつ正しく整えられるのか…、とただ感動。

キッチン下収納は、これまで使っていたテレビ台をバラしてラワン材ボックスを用いて作成したという。

「ついでに、テレビも捨てちゃいました。テレビつけっぱなしだと時間を取られるだけでなく、生活が死んでしまうような気がして…。」

全体的に躯体のコンクリートを生かした部屋をまるごとお洒落にするにはなかなか頭をひねらないといけない。
そこで建築学科卒の知識や技術を活かせるという。
天職ってこういうことか。

友達が遊びに来ると、全員とても良い反応をしてくれるのも嬉しい。
この部屋は会社にも近いし、とくに集中した時などはかえって部屋で取り組んだほうが効率も断然アガル。

したいこと、できることを次々と具現化できるこの部屋は、まさしく「成長する空間」。

ゆくゆくはリノベーション事業部として独立することも視野に入れているというSさん。
この部屋で夢を語る姿は、力強く輝いているように見えた。

上質な革靴は、きちんと正しく手入れをすれば何十年でも快適に履ける。「記念すべき30代を颯爽と駆け抜けられる最高の革靴が欲しくて、できるだけ良いものを買いました。」身体にマッチする仕事用椅子も、シューズマン・チェアと徹底している。Sさんがより良いステージへと駆け上る準備は、もうできあがっているようだ。

リビングからドアの外にあるキッチンスペース。ここに越してから、自炊も頻繁にするようになった。機能的で使いやすいキッチンは、お茶を入れることだけでも楽しい作業に。現在はホットサンドにハマり、毎朝作っているという。部屋は、ライフスタイルをまるごと上向きにする大切な場所だ。

Text: Yuzuka Matsumoto
Photograph: Yoshinori Tonari