国民健康保険と社会保険の違いとは?公的医療保険の基礎知識

日本に住む人であれば、誰もが当たり前に利用している健康保険。しかし、健康保険にはいくつもの種類があり、全員が同じ健康保険を利用しているというわけではない。
健康保険の制度の在り方と、健康保険の種類による違いについて改めて考えてみよう。

日本の公的な医療保険制度とは?

日本の「国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)」とは、国民全員が何らかの医療保険に加入しなければならないという制度である。この制度があるからこそ日本では、「ちょっと熱がある」「めまいがする」「手を切ってしまった」というようなときでも、気軽に病院に行くことができるのだ。
健康保険に加入している人の医療費の自己負担額は、6歳(義務教育就学前)から69歳までの特別な理由(難病にかかっているなど)がない人については3割となっている。つまり、仮に医療保険制度がなくなってしまったら、3,000円の受診料で受けられている治療が、10,000円になってしまうことになる。そうなれば、気軽に受診することはできなくなってしまうだろう。

また、日本の公的な医療保険には、高額療養費制度という制度があり、収入に応じて月ごとの医療費の自己負担額に上限が定められている。そのため、手術や入院をして、医療費が高額になればなるほど、得られるメリットも大きくなる。

このように、日本の公的な医療保険制度は、日本に住む人にとっては、非常にありがたい優れたシステムなのだ。健康保険には、「国民健康保険」と「会社員などが加入する健康保険(社会保険)」の2種類があるが、「3割負担」「高額療養費制度」という基本はどちらも変わらない。

国民健康保険とはいったいどんなもの?

公的な医療保険制度のひとつが、国民健康保険である。これは、地方自治体が運営している健康保険で、自営業者や無職の人など、健康保険(社会保険)に加入していない人・できない人が加入する保険だ。

国民健康保険の保険料はどのように決まる?

国民健康保険の保険料は、それぞれの加入者の収入と各自治体の制度によって異なる。国民健康保険の運営者は、国ではなく地方自治体であるため、それぞれの自治体の規定によって保険料が決まるからである。そのため、同じ収入であっても、住む場所によって保険料が高額になったり、安くなったりするケースがある。

なお、国民健康保険には、収入が一定以下の人に対する保険料の軽減・減免制度が用意されている。「仕事を辞めて国民健康保険に加入することになったが、収入がないため保険料を支払えない」といった場合は、各自治体の役所で相談をしてみよう。

国民健康保険には扶養の考え方はない

国民健康保険には、理由を問わず、すべての病気やケガの治療に利用することができるという特徴がある。
また、「扶養」という考え方がないという点も覚えておくべき特徴だろう。子供や無職の妻であっても、国民健康保険の場合は一定の健康保険料が発生する。これらの保険料は、世帯ごとに計算され、世帯主宛に通知されることになる。

健康保険(社会保険)とはいったいどんなもの?

会社員が加入する健康保険(社会保険)は、全国健康保険協会や各健康保険組合が運営しているものだ。健康保険組合は、企業ごとに独立して作られているものもあれば、業種ごとにいくつかの企業が集まって作られているものもある。こういった健康保険組合に加入していない中小企業などは、「協会けんぽ」と呼ばれる全国健康保険協会の健康保険に加入することになる。

これらの健康保険は、基本的に企業に勤めている被雇用者が加入することになる。正社員はもちろん、契約社員やパート社員なども、一定の条件を満たすことで加入対象となる。加入対象者になった場合は、加入を拒むことはできない。同様に、企業側が加入させないということもできない。

健康保険料はどのように決まる?

健康保険料は、「収入がいくらあるのか」「どこの健康保険組合に所属しているのか」「どこの地域に住んでいるのか」という3つの要素によって決まる。

健康保険料は、「標準報酬月額」と呼ばれる3ヵ月間の平均賃金を基準に決められるが、標準報酬月額の値に掛けることになる健康保険料率が、住んでいる地域や所属している健康保険組合によって異なるのである。
協会けんぽを例にとると、2018年度の東京都の健康保険料率は9.90%だが、大阪府の健康保険料率は10.17%となっている(どちらも企業負担分と社員負担分の合計で、40歳未満の場合)。一方、地域による健康保険料率の差を持たせていない健康保険組合もある。

業務上の病気やケガには利用できない

通勤中のケガや、業務が原因で発生した病気については、労災保険で対応することになるため、健康保険を使って受診することができない。業務中に体調を崩した場合や事故が起こった場合は、安易に健康保険証を出して受診しないように気を付けよう。
労災かもしれないと思ったら、まずは会社に連絡し、対応方法を相談する必要がある。なお、一度健康保険で受診してしまったものを後から労災に切り替えることも可能だが、どちらかわからないという場合は、労災対応にしておいたほうが、後の処理をスムーズに進めやすい。

扶養制度がある

健康保険(社会保険)には、国民健康保険にはない「扶養」という制度がある。これは、所得額の少ない家族を自分の扶養者として健康保険に加入させることができる制度である。健康保険料の負担がなく、病院にかかった際には、保険が利用できるため、非常に魅力的な制度だといえるだろう。
同居している配偶者や子供のほか、仕送りなどの事実がある場合は、別居している親などを扶養に入れることも可能だ。

独自の給付金や手当金がある

業務外の病気やケガによって、長期間働けない場合に給付される傷病手当金制度や、出産によって会社を休業した場合の出産手当金といった制度も、国民健康保険にはないものだ。入院や出産によって働けないあいだも、一定の金額を受け取ることができるため、生活基盤を維持したまま、療養や出産に専念できるというメリットがある。
そのほか、人間ドックの補助制度や、保養所の割引制度など、健康保険組合ごとに加入者が利用できるさまざまな制度が設けられている。こうした制度面は、国民健康保険よりも健康保険(社会保険)のほうが手厚いといえるだろう。

任意継続制度がある

「任意継続」とは、会社を辞めた人が、2年間を限度として、そのまま健康保険組合に加入し続けることのできる制度である。
健康保険(社会保険)には、扶養制度など、国民健康保険にはないメリットがあるため、国民健康保険に加入するよりも、そのまま継続したほうが健康保険料を抑えられるケースがある。そういう場合は、事前に申し出ることによって、退職後も2年間は健康保険組合に加入し続けることができる。ただし、任意継続の場合は、企業負担分も合わせて本人が払わなければならない。

なお、任意継続の保険料は、退職直前の標準報酬月額と組合の平均標準報酬月額のうち、どちらか低いほうを基準に算出されるため、組合の平均よりも高い賃金を得ていた人や、扶養者が多い人は、任意継続をするメリットが大きい可能性が高い。
具体的にどちらのほうの保険料が安くなるのかは、本人の収入や家族構成、住んでいる自治体などによって異なる。退職前に役所の窓口へ行って見積もりを出してもらい、任意継続した場合の保険料と比較してみよう。

それぞれの健康保険を意識して利用することが大切!

会社を辞めた後は、2年間に限るとはいえ、国民健康保険と健康保険(社会保険)のどちらに加入するかを選ぶことができる。また、現在国民健康保険に加入している家族がいる場合、扶養にできないかどうかを考える必要もあるだろう。
なんとなく選んでしまうのではなく、それぞれの健康保険の特徴を理解した上で、自分や家族にとって、どれが一番損をしない選択なのかを考えることが大切だ。

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