飲める人でも飲めない人でも楽しい「パブ in London」

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

日本からのメールやメッセージに「暑い」の2文字が必ず入るこの頃ですが、皆さま、体調壊されていないでしょうか…?

ロンドンは涼しい初夏を迎えています。それでも「夏が来たんだなあ」と感じているのは、毎朝飲むコーヒーや紅茶がホットからアイスに変わっているからです。

毎日「どちらにしようかな」と悩むのですが、結局アイスにしているこの頃。アイス率が高くなると、夏の到来を感じます。

5月から「17度前後が基本の気温で、時々25度ぐらいになる」を繰り返しているのですが、猛暑だった昨年に比べるとかなり寒い夏になりそうです。とはいえ、この時期は晴天の日が多く、ロンドンが最も美しい季節です。

ロンドンの真ん中、メイフェア地区のある日のスナップ。緑が美しい、静かな午後でした。

梅雨の日本と異なり、6月はイギリスの降雨量が最も少ない月です。なので毎年この時期に野外での公式行事が集中しています。例えばエリザベス女王の本当の誕生日は4月21日ですが、公式に誕生日を祝う軍隊パレード「トゥルーピング・ザ・カラー」は毎年6月に開催されます。

英王室公式インスタより。昨年の「トゥルーピング・ザ・カラー」の写真。ロイヤルファミリーの面々はかなり真剣にSNSやってます。

イギリスのビールは「冷えてない」!?

さて、「暑い夏に美味しい飲み物」と言えば…「ビール」ですよね?

これからの時期、仕事終わりの「キーンと冷えたビール」を楽しみに毎日お仕事を頑張っている方も多いと思います。

「ビールを楽しみに頑張る」の感覚はイギリスでも同じですが、実はイギリスのビール、あまり冷たくないんです。ビールの味わいはその土地の気候に関係していると思うのですが、イギリスはもともと寒い国なので「キーンと冷たい」の需要がある時期は本当に短いんです。

それでもラガーは冷たくして飲みますが、エール(下面発酵でできるビール)はぬるくても美味しいビールなので、パブなどで提供される場合も冷たくない場合が多いです。

ぬるいビールをつまみなしでも『美味しい!』と感じられたら、立派なイギリス人だね」なんて冗談をイギリス人によく言われます。こちらでは食事をしながらビールを飲むこともありますが、つまみなしで、ただビールだけを飲むのことの方が多いのです。

イギリス人は夏だけでなく一年中ビールを飲んでいる印象がありますが、それでも爽やかな季節に飲むビールは最高です。イギリスのビール処どころと言えば「パブ」ですが、天気の良い週末、パブはいつも大混雑!です。ガーデンがついているパブや、外に立ち飲みスペースがついているパブもあり、暖かい日はあえて外に陣取って、何時間でも立ち飲みするのが楽しみ…という人がたくさんいます。

飲める人でも飲めない人でも楽しい「パブ」

パブと言っても昔ながらの古びた雰囲気が素敵な「オールドマン・パブ(Old man pub=おやじパブ)」から、いまどきインテリアのモダンなパブまでさまざまです。

ワタクシ自身は「グラス1杯で朝まで楽しい♪」レベルの、お酒に弱い体質なのですが、でもビールもワインも味そのものは大好きです。量が飲めない「呪われた体質」を本気で残念に思っているのですが、でもパブは量が飲めない私が1杯で何時間「チビチビ」粘っていてもウェルカムな雰囲気があります。また「ガストロパブ」と呼ばれる食事も出すパブで味わうご飯の美味しさ(←「ガスロロパブ」についてはいつかまた書きます)、そして各店の特徴が表れているインテリア等々、パブには楽しみが多々あります。

壁にたくさんのサーバー・ハンドルがついている「いまどき系」のパブも人気です。

ワタクシと違ってまあまあ飲める口であり、「ビールを心の底から愛している」と常日頃から叫んでいる旦那のヒトの存在もあり、ここ数年、パブ行脚が2人のライフワークになっています。

ですのでご紹介したいパブは本当にたくさん(!)あります。今後この連載で少しずつ紹介してきたいのですが、今回は大好きな「オールドマン・パブ」をご紹介します。

古びた雰囲気が素敵な「オールド・マン・パブ」

1軒目は、現在のところ「私が最も好きなパブ第1位」である「Jerusalem Tavern(エルサレム・タバーン)」。ロンドン中心部のやや東、クラーケンウェル地区にある小さなパブです。

窓の上の看板部分に「1720」と書かれています。公式HPによるとこのパブは14世紀からこのエリアにあったそうですが、現在の場所に移ったのは1720年だそうです。「St Peter’s Brewery」というビール醸造メーカーが所有しているので、このブランドのビールを提供しています。

このブランドのビールの味が好き、というのもありますが、「好きなパブ第1位」の理由はこのパブならではの古びた雰囲気がたまらなく好きだからです。

歴史ある有名なパブなのですが、あまりに狭くて写真を撮るのに苦労したほど小さなお店です。ウナギの寝床のように細長い店内がいくつもの空間に仕切られているのが特徴です。

入口を入るとすぐの左右両方のスペースには、天井の下にドライのホップが飾られ、壁には古いタイルが埋め込まれています。私は初めてきたとき、この雰囲気にすっかり打ちのめされてしまいました。

晴れた日の昼下がり。おじいさんたちがおいしそうに「午後のビール」を満喫中。幸せな光景です。

古い壁とタイル。永遠にこのまま保存してほしいです。

夏は格子に区切られた窓から光が入り、そして冬は暖炉に火がたかれ、四季を通じて味わいのある雰囲気が素敵なのです。

このパブには奇妙な「小上がり」があります。階段をほんの数段上ると小さなテーブル1つだけが入るスペースがあるのです。イギリスの古い建築物は昔からの間取りや特徴を生かしたものが多く、こうした「ちょっと不思議なレイアウト」をよく見かけます。そういう発見も楽しいのです。

こちらが「小上がり」(中2階というのが正確でしょうか)。3名入るのがやっとです。

小上がりへの階段。短い階段なのに、わざわざ「くの字」になっています。

夕方に訪れるといつもお店はかなり混雑しています。狭い店内に人がびっしり、空席を探すのは至難の業です。特にこの1つしかない小上がりは激戦区で、今まで何度も通ったのに1度も座れたことがなく「憧れの場所」でした。

今回初めて平日の昼間に行ってみたのですが、昼時を過ぎるとやや余裕があることが分かりました。初めて憧れの場所に上がり、1人でのんびり寛ぎながら1杯やりました。太陽キラキラの夏日にパブで1杯、最高すぎます…(笑)。

サイダー(リンゴで作ったビール)を1杯。フランス語では「シードル」なので、日本では「シードル=ワインの一種」のイメージだと思います。でもイギリスではビールのカテゴリーに入ります。ほんのり甘くておいしいです。サイダーは「冷たいのが美味しい」ということになっているので、キリッと冷えていました。パブによってはサイダーを頼むと氷をくれることもあります。

小上がりからの眺め。ビール飲みつつ仕事の打ち合わせをしている人もいました。

細長い店内なので全体像をお伝えするのが難しいのですが、小上がりの向こう側にも細長いスペースがあります。

この奥まったスペースに古いベンチにひび割れたテーブルが収まり、心地よい空間に。

このスペースで一人ランチを食べていたジェントルマン。バゲッドのサンドイッチにビールを注文し、サクッと食べて去っていきました。

イギリスのアンティークやヴィンテージ家具や古い家のインテリアに興味がある人にはぜひおすすめのパブです。冬も素敵なので、いつか冬の写真も紹介したいと思います。

多目的に使える「住宅地のパブ」

もう1軒ご紹介するのは、「Jerusalem Tavern」の何倍もの面積のある広いパブです。ロンドン南部、チューティング地区にある「Antelope(アンテロープ)」。

こちらも古い建物を生かしつつオリジナルのインテリアが素敵なのですが、店内に入ってすぐに目が釘付けになるのは、何十枚ものお皿が緑の壁一面に飾られた一角です。

よく見ると、ヴィンテージのお皿ばかり。

店内はあえて暗めなのですが、大きな窓から光が入ります。とにかく広く、テーブルも椅子の数も多くてゆったり。ロンドン中心部よりビールの値段も良心的です。現在、ロンドン中心部だと1パイント(=約568ml)5ポンド(約750円)程度するのですが、中心部を離れる安くなっていき、このお店は1パイント3ポンド代(約450円~)で飲むことができます。

黒いハンドルはエールのサーバーです。エールは1度樽をあけてしまうと、賞味期限がラガーより短いので、エールのハンドルが多いパブは、流行っている&企業努力の見えるパブの証です。

「パブ(Pub)」は元々は「パブリックハウス(Public House)」が略された言葉ですが、住宅街のパブは、語源通りの「皆が集まる場所」としての機能が生きています。このパブは毎回地域の福祉グループや教会などの打ち合わせ、誕生パーティー等をしているのをよく見かけます。

窓際の大きなテーブルは打ち合わせの特等席。毎回、パソコンや紙を並べて話し合いをしているところをよく見ます。

中庭にはパーティーができる屋根付きのスペースがあります。この日も小さな子供の誕生日パーティーが開催されていたのですが、写真を撮るときはすっかり片付けられていました。

広い店内がいくつにも区切られているのですが「区切られている」のはかつては階級社会が日常生活の中に組み込まれていたことの名残です。イギリスには昔ほどではないものの、今でも階級制度はある程度残っています。差別とは異なり「各々が果たす役割がある」という信条のもと、自分の階級に誇りを持って暮らしていますが、かつては社交の場でも異なる階級の人たちが交わることはありませんでした。なのでパブも、中・上流階級の人たちと労働者階級の人たちのスペースを区切っていたわけです。

木枠と曇りガラスの敷居。こうした敷居は、昔の名残としてインテリアとして生かされています。

高い天井はテッカテカのペンキが塗られ、どっしりとしたシャンデリアが下がっています。ここだけ見ると悪趣味にも見えるのですが、パブ全体の雰囲気とマッチしているので、クラシック感を醸し出すインテリアとしてしっくり馴染んでいます。

テカり感のある群青色の天井。なかなか挑戦的…とも言えます(笑)。

古い鉄製のビール・マグをインテリアに使っているパブは多いです。ビール好きの旦那のヒトが「集めたい」と興味津々。

パブの話をしていると、本当に話が尽きません。

私の中ではパブはカフェと同様、「我が家ではないけれど、くつろげる場所」。パブやビールの歴史やうんちくはあまり知らないのですが、「こうした空間がイギリスの良さの1つですよ」という事を伝えられたらなあと思います。

今年の夏もまたせっせとパブに通います!

記事内で紹介したお店:

The Jerusalem Tavern
55 Britton Street, Clerkenwell, London
EC1M 5UQ
https://www.stpetersbrewery.co.uk/london-pub/

Antelope
76 Mitcham Rd, Tooting, London
SW17 9NG
https://theantelopepub.com