目指せ、サイクリングタウン!
自転車族が急増中in London

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

7月のロックダウン緩和後、街の風景が変わりつつあるロンドンです。

「厳しいルールを厳守した上で」という前置きつきですが、少しずつ街が開いていくのを感じます。7月4日からレストランやカフェの店内飲食が可能になり、7月25日からインドアのスポーツジムが再開しました。8月1日からは、イングランドでは脆弱(=vulnerable。持病や年齢等、健康面で脆弱な人のことを指す)な人たちの自主隔離要請も終了します。

ジム

近所のジムも再開しました。手の消毒、マシンの間隔、施設内の一方通行、アプリによる入場者数管理等、かなり徹底しているので安心して利用できます。

しかし感染が拡大している地域があるため、これ以上の緩和にはストップが掛かりました。8月1日から顔周りの施術をするエステサロン、カジノ、インドアでのライブパフォーマンス等も緩和予定でしたが、これは延期になりました。

8月もソーシャルディスタンス策はそのまま続行です。「野外でも6人以上で集まってはいけない」「室内は2世帯以上で集まってはいけない」のルールはそのままなのですが、野外でのチームスポーツは一部緩和されているので、その辺にやや矛盾があります。

驚くほどガイドラインを守ったうえで営業再開した近所のパブ。入店の際に電話番号を登録。同時間帯の利用客に感染者が出た場合、スマホにお知らせが来ます。

恐る恐るではあるのですが、少しずつ人々が外に出始めている現在。とはいえ「在宅勤務できる人はそのまま在宅で」が基本なので、緩和が進むエリアとそうでないエリアとのすみ分けも見えてきました。在宅勤務は今後「ニューノーマル」として定着すると予想されています。

国全体としての感染者数・死者数は順調に下がっていますが、9月には全英での学校再開が控えています。9月頭を境にまた見える風景が異なりそうです。

ロックダウンで自転車セールスが上昇

さて今回は、ロックダウンをきっかけに大きく注目されている自転車についてです。

イギリスでは自転車のことを「バイク(Bike)」と言います。イギリスに来たばかりのころ、「バイク」が話題に上り、オートバイのことを言っているのかと思った私だけ会話が噛み合わなかったことがありました。今、懐かしく思い出します。

(ちなみにオートバイのことはイギリス英語で「Motorcycle(モーターサイクル)」または「Motorbike(モーターバイク)」と言います。この2つの言葉の明確な使い分けはないのですが、Moterbikeの方がMotorcycleよりも小さめのオートバイをイメージする人が多いと思います。)

ロックダウン後の4月、自転車セールスが6割上昇した、と伝えるガーディアン紙の記事。

ロックダウンをきっかけに自転車が注目されたのは2つの理由からです。

①公共交通機関の代わりとなる通勤手段として:
ロックダウン開始後「とにかく移動しない」「キーワーカー(エッセンシャルワーカー)以外は公共交通機関を使わない」という方策が取られました。加えキーワーカーであっても出来るだけ公共交通機関を避け、徒歩または自転車での通勤が奨励されたため、自転車に乗る人が増えました。

②エクササイズとして:
ロックダウン中も1日1回の運動目的の外出は可能でした。自転車はソーシャルディスタンスをあまり気にせずにできる運動の1つであり、徒歩やジョギングよりも多少遠方に行くことが可能です。基本は家から出られないこの時期に自転車を買い、日々のエクササイズにしようとした人が続出しました。

4月~6月まで、我が家の窓から外を眺めているだけでもはっきり分かるぐらい車の交通量は激減し、反比例するように自転車は多くなっていました。家族全員でサイクリングをする人も多く、自転車屋さんは出荷に大忙しだったようです。

自転車族たくさん

これはロックダウン緩和後、近所のパブ前の緑地帯です。こんなに自転車族っていたっけ?と思うほど、自転車だらけの風景です。

イギリス政府(交通省)は①が定着化することを目指し、歩道&自転車レーンのインフラ整備に20億ポンド(約2兆7000億円)掛けることをロックダウン中の5月に発表。時を同じくしてロンドンのカーン市長も一時的な自転車レーンを市内に急きょ設置しましたが、これらは今後も永久的に自転車レーンとして使われることが決まっています。

すでに完成済の自転車レーン。ちょっと車幅は狭いですが、柵がついているので安心です。

“ポップアップ(一時的)”の自転車レーンが恒久的になることを伝えるインディペンデント紙の記事。

通勤に使う自転車が無税になるスキームは以前からありましたが、今後自転車通勤をニューノーマル化するために様々な助成をすると思います。第一弾として、7月28日から50ポンド分の自転車修理用クーポンを5万枚配布するスキームも始まりました。

ロンドンが「自転車の町」になる日も近い?

こんな風に、自転車族を増やす試みをいろいろ頑張るイギリスおよびロンドン。この動きを見ているうちに自転車が欲しくなっているわたくしなのですが、「買うのはもうちょっと待とう」と思っています。

それは、イギリスでは自転車は基本「車道を走るもの」だからです。このルールは日本も同じなのですが、イギリスでは「左に寄って走行するのが定番」というわけではありません。ほぼ車と同じスピードでびゅんびゅん飛ばしている人の方が多い印象です。

「あのスピードで運転するなんて、も~~絶対、無理無理!」とずっと思っていました。

ロンドン交通局が展開しているレンタル自転車事業はまあまあ浸透していますが、その他のレンタル自転車がそこまで一般化しないのは、わたくしと同じように「自転車の車道運転が怖い派」が多いからなのでは?と想像しています。

レッド

ロンドン交通局が運営している、レンタル自転車「サンタンダー・サイクル」。30分2ポンド(約270円)とやや高めな印象ですが、ロンドン中心部に発着ターミナルが多数あるので、「ちょっとそこまで」のときは便利です。(ちなみに「サンタンダー」はスポンサーとなっている銀行の名前です。)

グリーン

こちらはロンドン市内で展開しているレンタル自転車「Lime」。ターミナルに返却の必要がなく、エリア内であれば乗り捨て可能なので便利です。

しかし自転車レーンさえ完備されれば、こんなわたくしでも近い将来、自転車に乗れるやも…です。

現在、我が家の近所でも自転車レーン整備工事が始まっています。これまでベルリンやアムステルダム、コペンハーゲンで「自転車レーンのない大きな道路はない」状態を目にし、「羨ましい…」と思っていました。ロンドンが自転車の町になってくれたら嬉しい限り。工事の状況を眺めつつ、その日を心待ちにしています。

ベルリン

昨年行ったベルリンの地下鉄で。いつも自転車と一緒に乗ってくる乗客がたくさんいました。ドイツの自転車、ガッツリ重そうです。

“ママチャリ”はないの? ロンドンで見かける自転車

イギリスで一般的に見かける自転車は、前傾姿勢で乗る系の、ロードバイクやマウンテンバイク等です。

よく見る

長距離通勤に使う人は、前傾姿勢のレースサイクルのようなものを愛用しているようです。

駐輪

こちらのような、ハンドルが直線タイプの重そうな自転車もよく見かけます。安定感はこちらの方がありそうですね。盗難防止のために“空中駐輪”するのはアイデアです。

前後にカゴのついたシティサイクル(いわゆるママチャリ)をあまり見ないのですが、まったくないわけではありません。でも「買い物に便利なので自転車に乗ろう」という意識はイギリス人にはあまりないような気がします。

ママチャリ

獣医さんの前に停められていたカゴ付き自転車。可愛いですが、これで本気の買い物に行くのはちょっと無理かも…。

ママチャリ2

ごくたまにですが、子供用の座席がついた自転車も見かけます。

しかしわたくしの場合、自転車に乗りたい理由は「徒歩圏外への買い物」です。買い物に使えないなら、正直意味ナシ(と思っている人も、結構多い気がするんですが…)。

そんなわたくしが「自転車を買うことになったら、絶対これ!」とずっと思っている自転車はこちら↓です。

前後にガッツリ荷台があり、両方にカゴ装着が可能です。こちらは昔、イギリスの郵便局が配達用に使っていた自転車をリサイクルしたもの。「Elephant Bike」が販売しています。

後部にはカゴを載せるだけでなく、“下げる”ことも出来ます。

1台の値段は約300ポンド(約4万円)で、シティサイクルの標準価格と同じぐらいの値段です。しかもこのブランドで自転車を1台買うごとに、マラウイ共和国の社会的企業に1台自転車が送られるシステムになっています。

エコでもありチャリティーにもなり、買い物&荷台問題も解決できる自転車なので、本当にいつかほしいと真剣に思っています。

日本でも人気の「Brompton」。イギリスでも人気です。

と、ここまでは実用的な話なのですが、実はもう1台、ずっとほしいなあと思っている自転車があります。上記に書いたことと180度矛盾する(スミマセン…)、買い物問題解決にまったくならない自転車なのですが、目の前を通り過ぎるたびにデザインのかわいらしさ思わず目を細めてしまうのです。

そんな憧れの自転車がこちら↓のBrompton(ブロンプトン)です。

日本でも自転車好きに知られた、折り畳み自転車です。ロンドンに本社があり、今も自社工場で1台1台手作りで作られています。

こんな風にたためるので、持ち運びに便利です。

前方にバッグはつけられますが、買い物カゴとしては小さすぎ…。

Bromptonは金融街等、ロンドン中心部で働く人に人気です。駐輪スペースがない勤務先の場合、折りたたんでオフィス内に持っていくことが出来るからです。イギリスの社内デスクはかなり大型なので、デスクの下に保管することも可能です。

6月にはそんなシティワーカー層を狙ったと思われる、Bromptonと紳士服ブランド「Oliver Spencer」がコラボしたブレザーが発売され、評判になりました。

暑くなったらジャケットを脱ぎ、赤い紐を肩に掛けて自転車運転続行できますよ、というブレザー。

こうした企画商品は長い時間をかけて発売にこぎつけるものですが、奇しくもロックダウン中に発売。自転車ブームの時期と重なったため、大きくメディアに取り上げられました。

センスが光る、自転車グッズ

自転車はファッションと同じで、持ち主それぞれの個性が光ります。色や装着グッズ、そしてウェアも含め、こだわりが見えるものです。

下記3つは、わたくしが気になっている自転車グッズです。

■レザー製サドルバッグ

レザー製品ブランド「Vida Vida」のサドルの下につける小さなレザーバッグ。サドルの色と合わせると可愛いです。お財布とスマホぐらいなら入りそう。

■室内用バイクスタンド

ロンドン、しかもフラット(マンション)で暮らしている限り、収納スペースたっぷりの家に住んでいる人は極まれだと思います。自転車を入れる納戸を持っていない人は、室内に保管するしかありません。最近、こういった室内用のバイクスタンドを持っている人をよく見かけます。こちらはイタリア「Vadolibero」社のもの。自転車以外のものも一緒に掛けられるので、部屋にしっくり馴染みます。

■ベル

ベル

自転車ベルはいろいろありますが、昔ながらの指ではじくタイプのベルも根強い人気です。こちらはオランダの自転車関連ブランド「Basil」社の「Basil Portland – bicycle bell」。色は真鍮(写真)とシルバーの2色。シンプルなのにどこか気品のある佇まいが素敵です。(写真はBasil社のHPのキャプチャです。Basil © 2020)

この他にも自転車用のカップフォルダー、チェーン、自転車用のレインコートなどデザイン性の高い自転車グッズが本当にたくさん出ています。こうしたグッズは、クリスマスや誕生日のプレゼントにも人気です。

我が家には車がなく、わたくしは免許もありません。なので「いつか自転車が欲しい」とずっと思って現在に至っていますが、やっと「そのうち乗れるかも」の未来が見えてきたように思います。

今回触れられませんでしたが、電動自転車やEスクーター人気もうなぎのぼりです。Eスクーターは現行法では私道でしか利用できないことになっているのですが、実際には公道でも見かけます。

Eスクーターの人気と需要は国も認識しているので、現在地方でレンタルEスクーターの実験をしているところです。成功すれば、今後どんどん浸透すると思います。

これまで自転車は主にエコの観点で語られることが多かったのですが、ウィルスが自転車人気の火付け役になるとは半年前までは思いもしなかったことです。世の中は本当に先が読めません。

自転車にまつわる環境はさらに変化すると思いますので、またいつか特集したいと思います。

まだ移動をするにも人に会うにもルールを確認しながらやっていますが、天気の良い日に外を歩ける自由を噛み締めています。でも、もうしばらくは浮かれることなく、気を付けながら大人しく過ごそうと思います。

皆さまも、どうかお気をつけて夏を乗り切ってください!