高架下のタップルームで過ごした、緩和後の週末

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

※記事内容は2021年5月26日時点の情報によるものです。

5月になっても暖かくなる様子がないロンドンから、皆様こんにちは。

本来5月は「初夏」と言っても良い季節なのですが、5月後半から天気の悪い日が続く現在、夏の気配はまったく見られません。外出時には冬用コートでしっかり厚着して出かけています。

曇天続きのこの頃。肌寒いので公園も人が少な目です。天気が悪くても、若草の萌えは美しい…。

飲食店の屋内サービスが再開

そんな中、5月17日からイングランドはロックダウンがまた1段階緩和し、飲食店の屋内サービスが再開になりました。とはいっても、店内のソーシャルディスタンス策に加え、「テーブルを一緒に囲めるのは6人まで」「コロナ感染追跡アプリへのチェックイン」「入店者の電話番号を店に登録する」等々、さまざまなルールを守った上での再開です。

4月12日からの緩和では飲食店の野外席のみの再開だったので、震えながら飲んだり食べたりするしかありませんでした。現在は制限はありつつも暖かい室内で友人と会え、かつ飲食もできます。本当に夢のようです。

店内飲食解禁後、初めて行ったパブで。左のテーブルにコートの山が見えますが、現在、冬用コート必着の寒さ。改めて、店内で飲めることが嬉しいです(涙)。

「1年間ロックダウンによく耐えました」のご褒美のような今回の緩和だと感じています。

食事も美味しいことで有名なパブ「The Lady Ottoline」で、友人と一緒に摘まみながらの飲み。イギリス産のブッラータとワイト島のトマトの組み合わせ、大変美味でした。

ワクチン接種も順調に進んでおり、1回目の接種対象者が30代前半にまで降りてきています。イギリスでは1回目の接種を広範囲に行きわたらせるため、2回目の接種は1回目から11週間後が目安ですが、2回接種終了組も増えてきました。

友人を何らかの社交に誘う場合、「自分または会う相手の(少なくとも1回目の)接種が終わっているか?」「(どちらかが未接種の場合)お互いがそのことを気にしないか?」等に気遣うのも、暗黙のルールになりつつあります。

高架下にあるビールブルワリーのタップルーム

個人的にはなるべく外出を控えていますが、先日、ずっと行きたかったビールブルワリー(醸造所)「Hackney Church Brewery & Co」のタップルームに行ってきました。「タップルーム」とはブルワリー内に併設されている飲食できる場所(パブ&バー)のことです。

ロックダウン中、「緩和したら行きたい場所」をいろいろ検索していましたが、高架下を改装したお店の内観をインスタで見て以来、「行ってみたい!」と思っていました。

高架橋の下の有効利用は、日本でも多いと思います。ロンドンでも各所にある高架下が改装され、トレンドスポットになっています。

Hackney Church Brewery & Coの外観。この写真は、野外飲食のみが緩和された4月に撮影されたものです。あの頃は、皆さん、震えながら野外で飲んでいました。

高架橋の下の有効利用は、日本でも多いと思います。ロンドンでも各所にある高架下が改装され、トレンドスポットになっています。

ブルワリーの紹介動画ですが、高架下が改装され、工場およびタップルームになっていく途中工程の映像もあるので見ていて楽しいです。

Hackney Church Brewery & Coタップルームのインテリア上の1番の特徴は大きな窓です。

窓からさんさんと注がれる光もインテリアの1つです。

高架下の形をそのまま生かし、全面を窓にして光を入れています。そして細かい格子が連なるような窓枠にしているのもポイントです。黒い鉄枠がモダンでありつつも、どこかレトロな雰囲気も漂います。

内観は積み上げたレンガの質感を生かし、壁はあまり手を加えていない様子です。

しかし天井には工夫があります。もともと天井は高いのですが、上部を黒く塗ることで、さらに高く見える効果を引き出しています。そしてその下に張られた無垢の木材の梁が、程よいアクセントになっています。

広々とした店内ですが、現在入場人数制限中のためさらに広く感じました。テーブルごとの間隔もたっぷりとってあったので、安心して寛げる贅沢な空間でした。

長テーブルは通常時であれば10人程度座れますが、現在は1グループのみでの使用に限っていました。

ラガー、IPA、アルコール度高めのスタウト(黒ビール)、そしてサイダー(シードルのこと)等、さまざまなビールを醸造しているブルワリーですが、今回私が飲んでもっとも感激したのは、サイダーでした。

左はIPA(1パイント)、右がサイダー(ハーフサイズ)です。

リンゴのお酒のことを日本ではフランス風に「シードル」と呼んでいますが、英語では「サイダー(Cider)」と呼びます。そしてイギリスではサイダーはビールの仲間です。ワインのカテゴリーではありません。

このブルワリーのサイダーは、サイダーによくありがちなツンツンした酸味がゼロでした。まろやかでさらっとした甘味だけが口の残り、何杯でも飲めそうなぐらい絶品でした。

最近はオリジナルグラスを作っているブルワリーも多いです。ロゴマークの反対面には、可愛いイラストが。左はバーベキューをしている様子、右はピクニックの様子が描かれたイラストです。他のイラストが描かれたグラスもありました。

タップルームの隣にブルワリー(実際に醸造している工場↓)があります。
週末は何も動いていませんが、平日に来ると醸造している様子をチラリと見ることできます。

高架下の開発が進むロンドン

Hackney Church Brewery & Coは「Bohemia Place Market」というマーケットの中にあります。マーケットには高架下で店舗を構える店とストール(屋台)の両方があり、飲食から服飾、アクセサリーまでさまざまなお店が並んでいます。

Bohemia Place Marketは黒人カルチャーによるアイテムが充実していることで有名です。アフリカやカリブの食、アフリカンプリントの洋服等のお店がたくさん出ています。

このように高架下を拠点にするマーケットがロンドンには数カ所あります。バーモンジー地区にある「Maltby Street Market」も、高架下&ストール合体型のマーケットとして有名です。

Maltby Street Marketの公式インスタより。美味しいものがたくさんあるマーケットとして有名です。

Maltby Street Marketにある家具&雑貨店。丸い天井に鉄板が貼られ、インダストリアルな雰囲気になっています。ロフトも設けられている2層式で、奥に見える階段からロフトに上がれます。

「Maltby Street Market」のあるロンドン中心部からやや南東にあるエリアは、ビクトリア時代に建設された高架橋が広範囲に現存しています。このエリアの高架下開発計画は「Low Line(ロウライン)」と呼ばれ、地域のカルチャーハブとなることを目指し開発が続いています。

Low Lineエシカルハブ化計画のコンペで優勝した「PDPアーキテクツ」のプラン。水や電気の供給も視野に入れた、環境に考慮したプランです。

まだ手付かずの高架下がたくさんあるロンドン。味わいのあるレンガでできた高架橋の景観が保たれつつ楽しいお店やマーケットが増えていくと思うと、とても楽しみです。

「Let(貸店舗)」の看板がかかる高架下。そのうち素敵に生まれ変わるでしょう。

Low Lineの高架下にあるこのカフェは、ロンドンとコーンウォルで展開している「Origin Coffee」のサザーク店。大好きなお店です。現在テイクアウトだけで営業中。店内営業が再開したら、早くこのお店でコーヒーを飲みたいです。

このお店のフィルターコーヒーは、ビーカーに入れてサーブされます。薄い耐熱ガラス製ビーカーが素敵で、同じタイプのものを探し中です。

ポストコロナはまだ見えないけれど

先日久しぶりにロンドンの中心部に行きました。地下鉄はまあまあ混んでいましたが、地上に上がると道はまだガラガラでした。現在も多くの人が在宅勤務をしているので、街中に人が戻っていないのです。

地下鉄Vauxhall駅ののプラットフォーム。まあまあ人がいました。

街並みも以前とは異なります。イギリスは補償があるので何とか乗り越えたビジネスも多かったものの、残念ながら閉店してしまったお店もたくさんあります。少し歩くだけで閉店したお店がいくつも見つかり、その度に「あぁ、このお店、終わってしまったんだな…」と寂しい気持ちになります。

200年以上の歴史のある老舗デパート「Debenhams」の終焉を告げるニュース。5月15日ですべての店舗が閉店しました。

もう暫くは、コロナ以前と同じような街の賑わいは戻ってこないでしょう。ビジネスもまだまだ大変だと思います。

今はただ、緩和に伴う感染が拡大せず、このままワクチンロールアウトも順調に進み、コロナ禍の終息が見えてきますようにと祈るばかりです。

日本のいくつもの都市で緊急事態宣言が発令されていること、毎日ニュースで確認し、心配しています。どうか皆様、引き続きお気をつけてお過ごしください。