郵便問題に悩む日々

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

日本はまだまだ厳しい暑さが続いていると思います。お元気でいらっしゃいますでしょうか?

前回のコラムで『ロンドンも今年は猛暑です』と書きましたが、ワタクシ、夏が苦手です。その後も「日本のクーラー冷え冷えが懐かしい…」と毎晩思うほどの眠れぬ熱帯夜を過ごしておりましたが、8月後半に入りやっと連続夏日が収束した模様です。

あまりの暑さに、何年かぶりにソフトクリームを食べました。ロンドン南部Balham駅近くにある大好きなカフェ「Milk」で。おいしかったです。

現在は「夏・終了しました」感マックスのグレーの空が続いていますが、また暑さがぶり返すかもしれず。油断できません。

どんより曇り空が戻ってきました。

皆様のご健康を心配していると共に、私自身、秋を通り超えて「早く冬にならないかな~」と指折り数えている毎日です。

待てどくらせど、小包が来ない

さてそんなワタクシが冬以外にもかなりヤキモキしながら「到着を待っている」ものがあります(ちょっと無理矢理な導入ですね。お許しを!)。それは英国郵便(正確には英国郵便事業Royal Mailの宅配部門「Parcel Force」。以下「英国郵便」で統一)が配達してくれる荷物(小包)です。実は我が家はまあまあ深刻なデリバリー(配送)問題を抱えています。

といっても、封書やはがきはちゃんと届きます。届かないのは封書より大きめの「小包」の類。特に日本の両親から数カ月に1度届く小包、別名「愛情便」がなかなか届かないのです。

なぜハガキ・封書は届くのに、小包は届かないのか? それは配達方法が違うからなんです。

私の住むエリアの場合、配達員さんがハガキと封書を入れた手押し式カートを押し、1軒1軒歩いて回って配達しています。

Royal Mail 📮さん(@royalmailofficial)がシェアした投稿

英国郵便の赤いバンをよく街角で見かけます。このバンで郵便物を入れて配達エリアに移動し…(下に続く)

Royal Mail 📮さん(@royalmailofficial)がシェアした投稿

そこから歩いて回れるエリア分の郵便物だけ手押しカートに移し、徒歩で配達している模様です。

しかし小包は配達先に直接車でやってきます。この「車で直接」が問題なんです。我が家は駅前通りの端っこに位置しているのですが、建物の前は小さな緑化地帯になっており、木や花壇、ベンチ等があるので家の前に車を駐車することができません。

家の前の小さなグリーン地帯。夕暮れ時に撮影しました。この左右にパーキングできるスペースがあるものの、「表玄関の前に横付けできない」のが配達員さんには大問題…らしいです。

距離にしてわずか数十メートル。本当に「ちょこっと先」なだけのですが、この距離によって何が起こるかというと…以下配達員さんの“心模様”を想像してみました。

「この荷物重いな」

「ゲッ! 家の前に駐車できないじゃん!」

「この重い荷物を持って歩けっていうの!?しかも不在だったらまた運びなおし&配達しなおしじゃん」

「ひとまず配達すっ飛ばして、後で不在通知を送っておくか」

つまり、配達を飛ばされてしまうんです!

配達日時も扱いも正確かつ丁寧な日本の郵便・宅配事情に慣れている皆様は驚かれると思いますが、海外なのでこんなもんです。ワタクシ在英15年、これしきのことで驚いたりはいたしません(笑)。

しかも我が家に送られる荷物は、正直言って「小包」と言うには申し訳ないほど大きすぎて重すぎる、かなりの「“大”包」。配達員さんが飛ばしたくなる気持ちが分からないでもありません(涙)。

両親の愛が詰め込まれた小包ならぬ、大きくて重い箱。日本郵便のエコノミー航空(SAL)便で送れるマックス重量30kg! 食料だけでなく、私の仕事に必要な本や資料も入っています。紙ものが入るとどうしても重くなります。

とはいえ待っている荷物が届かないのですから困っていることは確かです。

「嘘つき不在票」は来るのだけれど

3年前、今の家に引っ越したばかり頃、絶対家に居た日時を「不在でした」と明記した不在票が連続して届きました。最初はのん気に「あれ?おかしいな…」と思っていましたが、度重なる嘘つき不在票を受け取る内に「配達を飛ばされている」事実に気づいた次第です。

配達されなかった荷物は英国郵便の場合「一時預かり所」に預けられます。不在票と身分証明書を持って出向くと荷物を引き取れる、というしくみです。オンラインまたは電話で再配送をアレンジすることも可能ですが、我が家の場合、再配達も飛ばされる可能性があるのでトライする価値がありません。

何度かクレーム窓口に事情をメールしました。するとかなり丁寧な返信はやってくるのですが、改善する様子ナシ。

う~む、困った。

仕方がないので愛情便の大きさを大箱から「小箱」にし、一時預かり所に自力で取りに行ける程度の重さに抑えることでることでしばらく対処していました。郵便は大切なインフラの1つ。荷物がうまく受け取れない生活は、なかなかのストレスです。

でもまあ一時預かり所には必ず届くし、すぐに取りに行けなくても安全に保管しておいてくれるし」―― そんな風に考えあきらめかけた頃、救世主が現れました。

こんな風に路面に家が建っていると、配達を飛ばされることもないのでしょうが…

救世主、現る!

今の家で暮らし始めて1年ほどたったころ、ある昼下がりにインターホンが鳴りました。出てみると「英国郵便です。荷物の配送に来ました!」と言うではありませんか!

ドアを開けるとクリクリのカーリーヘアが印象的な配達員のお兄さんが、日本からの「小箱(といっても10kgあります)」を軽々と片手に抱え、笑顔で立っています。

とうとう日本から荷物が届いた!?
この1年、何回も嘘つき不在票を受け取っていたのに…!

う、嬉しいぃぃぃぃ…!(涙)

あまりに驚き、そして嬉しかったワタクシ。何度も「ありがとう、ありがとう」と言うと、お兄さんはかな~り不思議そうにしています。

ワタクシ:「ここに引っ越してきてから、ずっと日本からの小包が届かなくって。本当に、ほんっとぉぉぉぉーーーにありがとう!
お兄さん:「あ、そうだったんだ~。そりゃ、災難だったね

サインを済ませると、笑顔で「まったね~」と足早に去っていくお兄さん。その後ろ姿を見ながら、モヤッとした焦燥感のようなものが胸をよぎりました。

あの笑顔のお兄さんに、私の必死さは伝わっていない(ような気がする)!

その瞬間、はっとひらめき台所に走りました。1箱残っていた日本の菓子メーカーのチョコレートを掴み、マンションの玄関までお兄さんを追いかけました。

これ、日本のチョコレート! 食べて! 届けてくれて本当にありがとうね!

お兄さんは日本語がビッシリと書かれたチョコレートの箱(=「きのこの山」です)を見て少しの間「キョトン」としていたものの、必死の形相のワタクシを見て何かを察したようにも見えました。

日本のチョコレート、初めてだよ! サンキュー

よく言えば「感謝の気持ち」。悪く言えば「忖度してほしいがための賄賂」。正直、どちらの意味もありました。お兄さんに「ありがとう」と「ほんとに困ってたのよ~」、そして「できればまたお願いしますっ!(必死)」の気持ちが伝わればいいな…。その時そう思ったのを覚えています。

“クリクリ”と“サラサラ”に助けられ

その数カ月後、ドキドキしながら次の日本からの荷物を待っていましたが、一時預かり所に行くことなく直接我が家に届きました。またしても“クリクリ”お兄さんが小脇に抱えて。

以来、配達員お兄さん用に日本のチョコレートを玄関に常備しておくのが習わしになりました。荷物も毎回ほぼ確実に届くようになり、お兄さんはたとえ私が1度目の配達時に不在でも一時預かり所には持っていかず、再配達してくれていることも分かってきました。

配達の時間は一瞬なので、すぐに手渡せるように玄関横の棚に常備しています。

次第に私も図に乗り、荷物の大きさを「小箱」から「大箱」に戻したのですが、それでもお兄さんは毎回必ず届けてくれます。

チョコレートを渡すときに、毎回少しだけ会話します。

今回のは重いよ~(笑)。玄関の内側までいれてあげようか?
日本って、飛行機で何時間ぐらいかかるの?
こないだのバンブーシュート(タケノコ)の形のチョコ、サクサクしておいしかったよ」(注:「たけのこの里」のことです)

最近はもう1人、サラサラ・ブロンドのお兄さんも配達してくれるようになりました。この“サラサラ”お兄さん、初めてチョコレートをあげたときに驚かなかったので、“クリクリ”お兄さんから何か聞いていたのかもしれません。


「憤りの先」に見えるもの

今回は英国郵便について書きましたが、通販で買ったもの等、民間の宅配業者によるデリバリーが届かないこともよくあります。これは我が家に限ったことではなく、イギリスの集合住宅の構造にまつわる複雑な問題なのでまたいつか改めて。

そんなままならないことが次々起こる海外暮らし。日本の常識はイギリスでは通用しないことも多く、「ありえない!」と泣きわめいても、事態が変わるどころか悪化してしまいます。特に古い建物が基本の国だけに、家周りのトラブルはたくさんあります。入居したばかりなのに「壊れた」「故障した」等の話はよく聞きます。建物の“ソフト部分”と言える、ガス、電気、水、ネットにまつわるトラブルも多く、常に何らかのメンテナンスが強いられます。

そんな毎日に時にはクサクサするものの、その先を抜けるとちょっとだけ温かな気持ちになる何かが待っていることもあります。そんな何かに助けられ、何とか日々を過ごせています。

日本からの荷物が届くと、何個かお兄さん“たち”用のお菓子を取り分けておきます。おせんべいなどの塩辛い系のお菓子より、チョコレート系の方が断然喜ぶ様子。できるだけ毎回違うチョコレートを用意して、インターホンが鳴るのを待っています。

1度だけ日本製でないチョコレートをお兄さんにあげたのですが、あまり喜ばれませんでした。最近はパッケージが「いかにも日本」のものを敢えて選んで渡しています。

次のチョコレートも喜んでくれるといいのだけれど。