「Withコロナ」を決めた国から見えるもの

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

※記事内容は2022年1月6日時点の情報によるものです。

ちょっと遅いご挨拶ですが、みなさま、あけましておめでとうございます。

イギリスは、暦上は1月2日から平日です。しかし今年は1月1日が土曜日だったため、3日が振替休日となりました。よって1月4日が勤務開始だった人が多かったです。例年よりは遅めの年明けとなりました。

家で静かに過ごした年末年始でしたが、今年もチマチマ工作気分でお節づくりを楽しみました。

柚子釜代わりのオレンジ釜、カマボコが高額すぎたので韓国の練り物を使ったショウガ和え、伊達巻替わりのだし巻き卵、三つ葉変わりのパクチーどっさりのお雑煮等、代用品だらけのお節。手前味噌で恐縮です。楽しく作りましたが、今回ふと「毎年お節食べなくても…いいかも」と思ったので、来年も作るかは分かりません(笑)。

入手不可・困難な日本食材を手軽に現地調達できるもので代用した「なんちゃってお節」です。お節に思い入れは特にないのですが、「何で代用するか?」を考えるのが楽しくて作っています。

さて、日本でもイギリスの新型コロナウィルス(以下「コロナ」と表記)の感染拡大についてたくさん報道されていると思います。私は毎日日本の報道も欠かさず見ている&読んでいるのですが、正直「随分大袈裟に報道されているな…」と感じています。確かにイギリスの感染者数は多いのですが、スーパーもレストランもジムも普通に営業しているので生活そのものに不便はなく、街も人々も“普通に”落ち着いているのです。

そこで今回は、私が経験している「コロナ禍、2度目の冬 in ロンドン」について書いてみたいと思います。

12月に3度目のワクチンを終えました。

イギリスは現在、猛烈なスピードで3度目のワクチン(ブースターワクチン、以下「ブースター」と表記)の接種を進めています。

2022年1月4日分までの情報。12歳以上のイギリス居住者の6割以上が3度目の接種を終えています。(画像はイギリス’政府コロナ情報サイトのキャプチャです)。

私も12月に接種しました。

クリスマス前に接種したのですが、近所のワクチンセンター(教会です)はこんな雰囲気でした。クリスマスソングを流し、接種前の並ぶスペースでボランティアさんと接種を待つ人たちが踊っています。ワクチン接種は決して楽しいことではないのですが、「それでも出来るだけ楽しく」の思いが伝わってきます。ちなみに接種は医療スタッフが行いますが、それ以外の業務はボランティアさんたちが担っています。感謝です。

10月に高齢者からブースターの接種が始まりましたが、その後ワクチンセンターを増やすだけでなく、予約なしで接種できる「ウォークイン・センター」や24時間体制のセンター等を設置し、年齢順も撤廃しました。加え11月4日に経口治療薬も世界で初めて認可し、医療科学の面の動きはスピード感があります。

その一方で、イギリスは行動規制の強化には消極的です。オミクロン株の急激な広まりを懸念し、12月8日、ジョンソン首相はイングランドのコロナ規制を「プランB」に移行することを発表しました。しかしこれは「公共交通機関でのマスク着用」「在宅勤務の再推奨」等、多少ルールを強化したもののロックダウンや厳しいルール改定ではないので、日々の生活もビジネスも通常通りに動いています。

この辺の動きから、「Withコロナでこの冬を乗り切る」という政府の意向は誰の目にも明らかでした。賛否両論はあるものの「そういうことなのか」という覚悟のようなものを市民側も持つに至ったのです。イギリスは一昨年3月からずっと厳しい環境下に置かれていたこともあり、人々は大抵のことではもう動じなくなっています。その辺の「慣れてしまった感」が良い事なのかは分かりませんが、「Withコロナの冬」を受け入れやすかった理由だと思います。

日本ではありえないかも…の“イギリスらしい”方策

ワクチン導入が早かったことも含め、コロナ禍において、イギリスは大胆な策をバンバン取り入れてきました。科学とデータ分析に基づき「効果的」「効率的」と思われることを躊躇なく進めるのはイギリスのお国柄なのですが、コロナ禍でもその姿勢を貫いています。

この手の「大胆事例」はたくさんあるのですが、最近の例の1つに「レッド国(危険国)の指定撤廃」が挙げられます。

ガラガラのヒースロー空港。出国手続きをする前のエリアではすべてのショップが閉まっています。

オミクロン株が世界中に広まる中、アフリカの国を中心に11カ国を「レッド国」に指定し、イギリスへの入国に厳しい規制を設けていました。しかし12月15日に突然この指定を撤廃し、すべての国を「グリーン国(安全国)」としたのです。

同時期、私の元には毎日のように日本の外務省や在英日本大使館から「日本の水際対策」についてルールや危険国指定の変更のお知らせがバンバン届いていました。あまりに頻繁&細かいルール変更、そして省庁発表の文書の難解さ(←何度読んでも理解できなかったものも)に「お~大変だ…」と思っていたのですが、そんな時期にアフリカ各国と近い関係にあるイギリスがレッド国指定をあっさり撤廃したのです。

このニュースに驚き「な、何で…?」と思ったのですが、ジャビド保健大臣の説明もなかなかすごかった!

国会でレッド国指定撤廃について説明している、ジャビド保健大臣。(画像は新聞『The Guardian紙』配信のYoutube動画のキャプチャです)

「すでにオミクロン株はイギリスだけでなく世界に蔓延している。そんな中レッド国指定をもうけたところで、国外からのオミクロン株の侵入を遅延させる効果はほぼない」(by ジャビド保健大臣)

た、確かにそうなんですが…(笑)。

レッド指定国が多ければそれだけ国(イギリス)側の手続きが必要になり、マンパワーもコストも必要になります。手間をかけても効果を発揮しない規制なら、撤廃して限りあるマンパワーや時間を有効に使った方が良いということなのです。

こういった判断、あらゆる方策において「慎重派」の日本では心情的にも実務レベルでもありえない気がします。しかしイギリスではこの手の判断・決断は多く、今回の決定についても市民から大きな批判は出ませんでした。

この辺の「イギリスの潔いまでの大胆な決断」、在英歴が長いとはいえ日本人の私は毎度驚いてしまいます。でもそのたびに「ま、イギリスならそう来るかもね」と思い直しています。

週5勤務には戻らない?ポストコロナのオフィスの在り方

こんな風に「Withコロナを決めた国」イギリスなのですが、リモートワーク(在宅勤務)方針は今後も続くと思われます。

一昨年3月から、長らくリモートワークが推奨されてきましたが、昨年10月に1度「皆さん会社に戻りましょう」と、週2~3回程度の通勤再開・オフィス勤務推奨に転換しました。しかしその後のオミクロン株の出現で、あっさりリモートワーク推奨にUターンしました。

この「Uターン」の影響は大きいのではないか?と個人的には思っています。

1年以上に渡るリモートワークを経験し、人々が「リモートでも仕事はまわるのだから、このままでいいのでは?」と感じたのは、日本もイギリスも同じです。加え、イギリスの場合交通費は自腹(会社が負担しない)。イギリスの電車料金は高額なこともあり、「リモートワークを続けたい」と思うのは当然です。

ロンドンの地下鉄。結構横幅が狭いのです。この写真はガラガラですが、現在は時間によってはまあまあ混んでいます。車内でのソーシャルディスタンスは無理なことも多いです。

10月の「出勤推奨」により、人々は嫌々ながらも「失業するわけにはいかないから」と通勤を始めました。しかしあっと言う間に「再びリモートワーク」に(←イマココ)。「もう週5通勤には戻らない&戻れない」という気持ちがUターン前以上に確固たるものとなった人は多く、社会もその気持ちに沿った形で動いていくと思うからです。

すでにオフィス関連業界は変わり始めています。

オミクロン株出現前、マックス緩和時の金融街ですが人影まばら。ロンドン中心部や金融街はずっとこんな感じです。

オフィスビルや建築デザイン界隈は、ポストコロナも「リモートワークが基本、たま~にオフィスに出勤」がスタンダードになると予想しています。こうした流れに伴い、「家ではできないことをする場所=オフィス」というコンセプトで社内レイアウトやオフィスデザインを刷新する会社が増えているそうです。

「The Crown Estate」がローンチした「6 Babmaes Street」は、ミーティングスペースを充実させたオフィスハブ。

家で出来ないことの代表格は、(オンライン上ではなく)“実際に”誰かと会うこと。

*同じ場所に集まり、顔を突き合わせて行った方が良いミーティングの場所
*同僚やクライアントとのソーシャライズ(交流)しやすい場所
を提供するのが「ポストコロナのオフィスの役割」。具体的にはデスクワークを行うスペースを減らし、ミーティング&ソーシャライズのための場所に多くのスペースを割くレイアウトに作り替えています。

ソーシャライズする場所としてのオフィスに作り替えた事例はたくさんあります。こちらはGensler Designがデザインした「Pladis(プラディス、マクビティブランドを保有する菓子&スナック会社)」のオフィス。<Design Week>の報道によると、「ベーカリーとホテルの融合」をテーマにしたスペースとオープンキッチンを作り、スタッフが集う場を増やしたそうです。

自社ビルを持つ企業もありますが、多くの場合企業はオフィスを賃貸しています。「貸し出す」オフィスビル側は、生き残りをかけ、今後も企業が賃貸しつづけてくれるための「魅力」を作り出さねばなりません。また企業側もコストを掛けて賃貸するのであれば、社員が出勤する意味を見出せる「有益な場」にしなくてはなりません。

この辺は現在活発に動いているエリアなので、ミーティング&ソーシャライズだけでなく、現在は予想できない何かの新たな「オフィスの付加価値」が生まれる可能性があります。今後また機会があったらレポートしたいと思います。

今年も元気に過ごしたいです。

2022年も少なくとも前半は「コロナ禍の年」になりそうです。でもルールに従い、NHS(イギリス国民健康サービス)が無料提供しているコロナ検査キットでこまめに検査をし、基本はステイホームで静か暮らしている分には安心して過ごせています。

普段はジムで走っていますが、ウォーキングしたくなった日は南西ロンドンにある「リッチモンドパーク」まで散歩します。鹿がたくさんいることで有名な公園です。2匹の鹿が角を突き合わせてデート中♡。

「1月=ダイエット月間」なことは日本もイギリスも同じですよね。休日の公園は、ウィーキングする人、ジョギングする人、自転車に乗る人、犬の散歩をする人でまあまあ混んでいます。

なかなか終わらぬコロナ禍ですが、今年もできるだけ楽しく過ごしたいです。そして国際移動が困難な今だからこそ、記事を通じて「遠い国の、ちょっと面白い情報」をお届けできたらと思っています。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。