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ロンドン名物「パイ&マッシュポテト」「うなぎシチュー」を食べてみた!

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

※記事内容は2022年3月31日時点の情報によるものです。

最近青空の日が多く、春の兆しを感じているロンドンです。

ロンドンの中心部にあるマリルボーン地区で撮影。赤いレンガのビルと青空のコントラストが美しいです。

前回のコラムを書いたとき、「次回を書くまでにウクライナ侵攻が終わっていますように…」と思っていました。しかし残念ながらいまだ戦闘は続いています。

最近の新聞。読むのも辛いのですが、今の状況をちゃんと見ておきたいので読んでいます。

イギリスはNATO加盟国であり、すでにウクライナからの避難民も続々到着していることから空爆のニュース以外にもさまざまな動きが日々更新されています。

ウクライナの孤児院の子供たち52人が、スコットランド・エジンバラに無事到着したニュース。

連日このニュースがトップなこともあり、この2年のコロナ禍が遠くに感じるこの頃です。

3月26日に大きなデモ行進がロンドン中心部で行われました。行くつもりにしていましたが、体調不良で断念。ニュースで見守りました。

イギリスにおける「パイ」とは?

さて今回は、ロンドン東部が発祥といわれる伝統のB級グルメ「パイ&マッシュ」と「うなぎシチュー」を食べてきたのでそのレポートをお届けしようと思います。「う、うなぎシチュー!? それって何?」と思われると思うのですが、その点は後半にしっかり書きますので、まずはパイについて少しだけ前説です。

「パイ」と聞いたとき、「アップルパイ」や「パンプキンパイ」等、甘いパイがまず頭に浮かぶ人が多いかもしれません。

こんな感じのパイが日本的にはスタンダードな「パイ」のイメージだと思います。

しかしイギリスでは「パイ=甘い焼き菓子&ケーキ」ではないのです。もちろん甘いパイもあるのですが、セイボリー(Savoy:甘い味付けではない食品)系のパイもたくさんあり、どちらかというと甘くない食事・軽食系のパイの方のイメージの方が強いです。

例えば、フィッシュパイ↓

ジェイミー・オリバーのYoutubeチャンネルのキャプチャ画像。下味をつけた魚の上に、たっぷりのマッシュドポテトを盛り、オーブンで焼いています。調理動画はこちらから。@ jamieoliver - Youtube

ステーキ&マッシュルームパイ↓

パイ料理が美味しいことで知られるロンドン・メイフェア地区にあるパブ「Windmill」のinstagramより。

ポークパイ↓

イギリスでもっとも有名なポークパイのブランド「Dickinson & Morris」のTwitterより。食べ応えがありますが、食事というよりは軽食として食べるタイプのパイです。

こうしたパイ料理はイギリスでは大変一般的です。今回ご紹介するパイもミートパイなので、食事・軽食系パイの1つです。

ちなみに…ですが、ケーキ型の焼き菓子のことは「タルト」ということが多いです。

こちらは皆大好きなアップルタルト。

「タルト」と「パイ」の相違については諸説あるのでここでは詳しく書きませんが、私がイギリスで抱いているイメージとしては、「パイ生地」はサクサク(折りパイ生地)またはふんわり柔らかく(練りパイ生地)、一方「タルト生地」はビスケットに近い硬さと香ばしさがあります。また「パイ“料理”」は肉や魚などの具材をパイ生地やマッシュドポテトで覆ってオーブンで焼きあげますが、「タルト“菓子”」の生地は土台にのみ使うだけのことが多いようです。

タルト型そのものが薄型なこともあり、パイと比較してタルトの方が “薄い”イメージもあります。しかしその辺はお店や作り手によってまちまちです。

「パイ&マッシュ」の名店「M. Manze」に行ってきました

やっと本題です。

ロンドン、特に東部を歩いていると「Pie & Mash(パイ&マッシュ)」または「Pie, Mash & Eel(パイ、マッシュ&うなぎ)」と看板に書かれた食堂をときどき見かけます。いずれもどこか味のある店構えが印象的で、お店で提供しているのはミートパイとマッシュポテト、うなぎ料理(ゼリー寄せもしくはシチュー)にノンアルコールのドリンク類だけです。

ロンドン東部でプとフォード地区にある2つのお店を紹介しているYoutube Channel「The Pie & Mash Club」の動画。

「パイ&マッシュ」そして「うなぎ料理」は「ロンドン最古のファーストフード」とも言われており、それだけにずっと気になっていました。しかしこの手のお店は営業時間が短く、訪れる機会を逃していました。

やっとコロナルールが緩和したこともあり、今回、もっとも有名なお店のひとつである「M. Manze」行ってきました。

1902年創業、ロンドンに計3店舗ある「M. Manze」。この写真はペッカム店。レンガの外壁に掲げられた「Eel & Pie House」の文字がいつも気になっていたのですが、営業時間が短いので(通常は10:30~14:30、土曜のみ14:45まで)なかなか行けなかったのです。

今回私が訪れたSutton店。南西ロンドン、Sutton駅から続く商店街の先にあります。このお店は17時まで営業しています。

外観だけでなく、レトロな内観も期待通りでした。タイル張りの店内に横長のテーブル席が並び、奥に注文カウンターがあります。

この写真ではお客さんが少なそうに見えますが、閉店間際に撮影したためです。

ひっきりなしに人が入ってくる人気店。店内で食べる人以上に、「Uber Eat」等のデリバリースタッフがどんどん訪れます。

入店してまっすぐカウンターに進み、定番の「パイ&マッシュ(ミートパイとマッシュドポテト、リカー添え)」(5.30ポンド、約850円)と、

「うなぎのシチュー(うなぎの煮込み、リカー添え)」(5.60ポンド、約900円)の2品を注文しました。

「シチュー」という言葉は、英語では単に「煮込み」を指します。日本でイメージする「とろみがついた濃い目のスープ」ではない場合もあります。900円と聞くと「結構高い」と思われるかもしれませんが、これは円とポンドの為替によるもので、1ポンドは100円ぐらいの感覚で使われています。現地的には一皿500~600円で食べられる安価な食事という印象です。

本当はこの手のお店のもう1つの定番である「うなぎのゼリー寄せ」も食べてみたかったのですが、残念ながらこの日は販売していませんでした。

こちらが「うなぎのゼリー寄せ」。正直食欲をそそる見かけではないのですが、長く愛されてきているのには理由があるはず。次に行ったときには必ずトライします。

たっぷりのひき肉がつまったパイ

伝統的な「パイ&マッシュ」のパイは、型に練りパイ生地(練りパイ生地)を敷き、その上に煮込んだ牛ひき肉をたっぷり乗せ、パイ生地で蓋をしてオーブンで焼き上げたものです。

パイの調理工程がよく分かる動画です。音声が出るのでご注意下さい。

お皿にマッシュポテトを盛りつけ、たっぷりのソース「リカー」を注いでサーブされます。

湯気がもうもうと出る鍋から熱々のリカーを注ぎます。

この緑色のソース「リカー」とは、魚からとったスープストック(だし汁)にみじん切りのパセリを入れ、とろみをつけたものです。このスープストックには通常うなぎのゆで汁が使われています。

熱々のパイとマッシュポテトは、ホッとする美味しさでした。ひき肉は思ったよりもたっぷりで、パイ生地はカリッと焼きあがっています。

あまりきれいではない写真でごめんなさい(でも食べる前の状態です)。パイを割ると、中から煮込んだひき肉のソースがどっと流れ出ます。

実はパイ以上にリカーにかなり期待していたのですが… う~ん、これはびっくりするほど薄味で「本当にスープストック使ってる?(お湯なんじゃないの?)」と正直思いました。

しかし、塩を二振りし、ちょっとだけお酢をかけたら「あら不思議」。うなぎのだし汁らしい風味とパセリの香りがぐんと引き立ってきたのです。調味料が備えつけられている意味を理解しました。

すべてのテーブルに、塩とコショウ、そしてモルトビネガー(麦芽から作られた酢)が置かれています。

うなぎのシチューのお味は?

「パイ&マッシュ」の味はある程度予想がついていたのですが、うなぎシチューの味は全く予想がつきませんでした。うなぎのぶつ切りを煮たものに、たっぷりのリカーをかけた一皿です。

やや小骨が気になりましたが、味は脂ののったうなぎそのもの。

食べてみると、日本のうなぎ料理のように骨を抜いていないので小骨が気になりました。しかし身の味は(当たり前なのですが)フツーにうなぎでした。かば焼きや白焼き以外の方法でうなぎ食べたことがなかったのですが、「蒸しうなぎ」にパセリの風味が意外に合いました。うなぎの脂をパセリのフレッシュさで調和する…という感じです。

パイとマッシュポテトとうなぎが1皿に盛られたセットもあります。

私にとって「また食べたい!」と思うほどの味ではなかったのですが(笑)、この味が好きな人がいるのは頷けました。

なぜ「うなぎ」がロンドン名物なのか?

「パイ&マッシュ」そして「うなぎ」という不思議な組み合わせが「ロンドン最古のファーストフード」と呼ばれているのは、ロンドンの歴史とロンドンを流れる「テムズ川」が関係しています。

19世紀以前からロンドン東部ではうなぎを食する文化があったそうです。テムズ川でうなぎが多く漁獲されていたからです。当時は肉よりも安価だったうなぎの身をパイの具材として使っていたほどよく食べられており、パイとマッシュポテト、そしてうなぎ料理のセットはテムズ川文化圏であるロンドン東部および南部に定着していきました。

壁に埋め込まれた愛らしいうなぎの絵のタイル。

その後19世紀半ばに産業革命が起こりました。持ち運びができるパイはお弁当にももってこい。かつ屋台等でも販売しやすいため、忙しく働く労働者たちにとってパイは便利な食べ物としてそれまで以上に重宝されるようになります。

工業化が進むとともにロンドンは大気汚染およびテムズ川の水質汚濁が深刻化。テムズ川で魚がほぼ取れなくなったもののうなぎだけは生き残り、水揚げすることができました。

1858年、ジョン・テニエルが描いた『The Silent Highwayman(沈黙の追いはぎ)』。テニエルは『不思議の国のアリス』の挿絵を描いたことで知られるイラストレーター。当時テムズ川は水質汚濁によるひどい悪臭が問題となっていました。

こうしてパイ&うなぎ料理文化がロンドンで生き残り、ワーキングクラスのファーストフィードとして愛されるようになったのです。

閉店が続いている「パイ&マッシュ」店

150年以上に渡り「身近なファーストフード」であり続けた「パイ&マッシュ」「うなぎ料理」ですが、ここ数年で閉店が相次いでいます。

美しい内観で知られるロンドン・ウォルサムストウ地区にある「L. Manze」。90年の歴史に幕を下ろすことを、つい先日発表しました。

後継者やスタッフ不足、原材料(特にうなぎ)の高騰、お店の賃貸料金やビジネスレート(非居住用資産に対する固定資産税)の値上がり等にお店側が耐えきれなくなったことが主な理由と言われていますが、加えコロナ禍の影響、人々の味覚の変化もあげられています。

時代が変わり、ロンドン人にとってうなぎは身近な食べ物ではなくなりました。現在こうしたお店で使用されているうなぎのほとんどは、近隣欧州諸国やアイルランド産とのこと。安くて美味しい魚介類はスーパーや鮮魚店で購入可能なので「わざわざうなぎを食べなくても…」という流れになるのは理解できなくもありません。

店員さんの緑色の制服もトラディショナル風で可愛かったです。この手のお店は店内のさまざまな部分に緑色があしらわれていますが、リカーから連想する色だからかな?と思いました。

しかしまだ1軒しか行っていないものの、レトロな雰囲気と素朴な味にすっかり魅了されてしまったわたくし。ロンドンの食文化の1つであるパイとうなぎ文化がなくならないで欲しいので、今後せっせと現存するお店を周りたいと思います。

次に行くお店はロンドン・ホクストン地区にある「L. Cooke」と決めています。このインテリアも魅力です。

次に更新するときには戦争が終わり、コロナもさらに終息に向かい、明るいニュースで溢れていますようにと願っています。

ではまた来月、お目に掛ります!

紹介したお店:
M. Manze
https://www.manze.co.uk/
※店内はお店の許可を得て撮影しました。

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