これが英国レベルのDIY!2人で作りあげた『スイート・ホーム』

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

皆様、こんにちは。9月に入ってから、どんどん日が短くなり、気温も急激に下がっているロンドンです。最近はジャケットを持たずに外出し、夜帰りが遅くなると寒くて大変…なんていう日もよくあります。

これから冬に向かってまっしぐら。タートルネックに厚手のコートを着始めるのも、もうすぐ、と感じています。

すっかり「秋の空」になりました。

「家の先生」と建築家カップルが手掛けたリノベーション・ハウス

さて今回は、満を持して!?の「お宅拝見」レポートです。当コラムは「ロンドンのライフスタイル」についての連載ですが、なかなか私以外の人の暮らしについて紹介できる機会がありませんでした。しかし先日、約1年掛かった友人宅のリノベーションが無事終了したので、じっくり家の見せてもらい撮影させてもらいました。

友人はこの2人。イギリス人のフィルとフィリピン系オーストラリア人のRJ(アールジェイ)のカップルです。

企業でITを担当しているフィル(右)とビルや公共施設の建築デザインを手掛ける会社に勤務する建築家のRJ(左)。共に30代、付き合い始めて約5年のゲイカップルです。

フィルと私は10年来の友人です。友だちになった頃フィルはまだ20代中盤の若さだったのですが、1軒目のフラット(=マンション)をすでに購入していました。イギリスは「家の値段が下がらない」国。銀行にお金を預けるよりも、家を購入したほうが資産価値が上がっていきます。なので資産計画を立てるとき、まずは家を基盤に考えるのが基本です。

学生を終え、就職してローンを組めるようになると1軒目の家を買い、経済状況や家族の増減に合わせて住み替えていくのがイギリス流。ここ15年で家の値段がありえない速度で上昇してしまったので、若い人が1軒目の頭金を出せず「家を基盤に」が難しくなってはいます。しかしフィルはこの「イギリス流」を着実に実行しているだけに知識も豊富。私と旦那のヒトが3年前にゼイゼイ言いながらやっとの思いでフラットを買ったときも、たくさんアドバイスをくれました。私たちにとってフィルは「家の先生」です。

この「家の先生」は家購入にまつわる知識も豊富ですが、DIYやリノベーションについてもよく知っています。これは「家を基盤に」考えるイギリスならではのカルチャーから来るもの。古い家が多く新築が少ないイギリスでは、古い家を買って自分の手でリノベするのが一般的。子供のときから家のリノベを手伝ってきたので、DIYが得意な人が本当に多いのです。

我が家(築60年ですが、イギリスでは新しい部類に入ります)はリノベ済みの状態で買ったものの、それでも棚をつけたりとDIYと無縁ではいられません。DIY1年生としてフィル先生にご教授いただきつつ、何とか古いフラット暮らしを続けています。先生“さまさま”です。

古いビクトリア時代の家がモダンに変身

フィル&RJの家はロンドン南部の住宅街にあります。19世紀末、ヴィクトリア王朝時代に建てられた「ヴィクトリアン・フラット」です。

3年前にフィルがこの家を購入し、少しだけキレイにした状態で2年間は貸家にしていました。しかし2人で住むために本格的に改装しようと決意し、住みながら1年掛けて改装しました。

改装中、「古いボロボロの家で、今シャワーもないんだ。早く終わらないかなあ…」と言っていたのは何度も聞きました。リノベ途中にチラチラ見せてくれた写真を見る限り「まあ、確かに…(ボロボロかも)」という感じ。

左:フィル提供の改装前写真。確かにレトロ壁紙&天井には大きなシミ。/右:庭は荒れ放題の上に掘っ立て小屋は崩れそう…。© Philip Surtees

この状態から約1年。「家の先生」と建築家カップルはどう改装したのでしょうか?

2人の家の外観。

外観はレンガ造りのイギリスによくある、レンガ造りの長屋。外壁は建築当時のオリジナルですが、塀の部分は新しく積みなおしたそうです。

さっそく中に入り玄関を入り細い廊下を抜けると…

リビング+ダイニング+キッチンが一体となったLDK空間が広がります。

コの字型をした間取り。まずは小さなダイニングスペースがあり

左手にキッチンとカウンター。

その奥が、ソファーやテレビがあるリビングスペース。

おお、キレイ!

想像以上にモダンな雰囲気に改装されていました。ダイニングとキッチンは白壁、続くリビングの壁は薄いペパーミントグリーンでアクセントをつけています。ランプシェードも色を合わてコーディネート。庭に面した壁はガラスの扉になっているので燦燦と光が差し込みます。

家具やオブジェも最小限。ミニマルなインテリアが特徴です。キッチンはまるで使っていないようなスッキリ感。「いつも本当にこんなに片付いてるの? キッチンに全然物がないじゃない(笑)」と聞いてみると、真顔で「いつもこんな感じだよ」と2人揃って言われました。

「僕はあまりマテリアリストじゃないんだ。この状態をキープできるよう、物を増やさず、マメに掃除するよう気を付けているよ」(RJ)

なるほど。どこもかしこもまだ真新しいですが、掃除も行き届いた気持ちの良い空間です。

「ビフォア&アフター」比べてみました

案内してもらいながら「一体どの部分を自分たちで作業してリノベしたの?」と聞くと、「ガス&水回り以外、全部自分たちでやったよ」とのこと。具体的にはシステムキッチンの設置、窓入れ、新しい浴槽と洗面台、トイレの取り付けと配管工事、は専門業者に依頼。それ以外は壁や床のタイル貼り、棚の取り付け、ペンキ塗り、電気関係も全部自分たちで行ったというのです。

「1つ1つの素材や部品も自分たちで選び、購入したんだよ。全部業者に頼んだ場合と比較し、改装コストを半分以下に抑えることができたんだ」(RJ)

「でもこれって…プロの大工さんレベルの仕事じゃない? 一体誰に習ったの?」(私)

「子供のころから家のリノベを手伝ってるから、何となく知ってるし調べれば分かるしね」(フィル)

「自分でリノベしました」話はイギリスにいるとよく聞きますが、このレベルで仕上げられるって…ホント!? と驚きつつ、さらにフィルが保存していた写真を見て仰天しました。

この場所が…

© Philip Surtees

ドアの位置も変わり、キッチンに。

1階の庭に面した部分は、何と元はバスルームだったそう。

© Philip Surtees

バスルームをすべて取り壊して、壁をぶち抜き…

外から誰でも入ってこられる状態で1カ月過ごしたというのだからスゴイ(笑) 冬だったので寒かったそうです。© Philip Surtees

庭側からみた状態。バスルーム部分はすべて撤去。© Philip Surtees

窓を入れ…

壁全面にフィットするガラスの扉をはめ込み。© Philip Surtees

室内の壁に漆喰を塗り、その上にペンキを塗り…

漆喰がはがれたところから、レンガ造りの家なことがよくわかります。© Philip Surtees

そしてこの状態になるとは…!

確かに間取りは同じだけれど…。

ただただ、驚きです!

このLDK部分のビフォア&アフターを見るだけで、数えきれないほどの工程があることが分かるのですが、この家はこのスペース以外にも寝室が3つ(2寝室は人に貸しています)、バスルームが1つ、そしてロフトもあります。全部自分たちで改装したなんて、本当に尊敬です。

こちらは2階にある2人の寝室。落ち着いたモスグリーンの壁でまとめています。

実はこの寝室、元々はキッチンだったそう。

2階にキッチンがあるという不思議な間取りだったそうですが、「キッチンは1階の方が便利」と寝室に改装しました。© Philip Surtees

こちらは2階にあるバスルーム。まるでイマドキのデザイン・ホテルのようです。

元のバスルームはこんな感じ。浴槽やトイレの位置を変えるところは業者が行い、タイルを張ったり棚を付けたりの作業はすべて自分たちでやりました。

悪くないのですが、デザイン的には古臭い感じが否めなかったですね。© Philip Surtees

梯子を上ると、上はロフトです。

お客さん用のゲストルーム、そして2人の書斎として使っているロフト。

この夏はフィルの姪が1カ月住んでいたそうです。

こんなに明るくて過ごしやすそうな部屋ですが、元はこんな(↓)だったとは…。

© Philip Surtees

同じ部屋とは思えません…。

リノベーションが終わり、家事が楽しくなった。

一通り家を案内してくれると、「そろそろランチにしようか」と2人。1階のキッチンに降りると、気づいていなかったのですがオーブンでチキンが焼かれていたのです。どおりでいい匂いがしていました。

テキパキとランチの準備を始めます。まずは庭に出て自家製トマトを収穫。

ガーデニングもイギリス人の得意技ですが、綺麗に整えられた庭で家庭菜園も作られていました。しっかり熟した甘いトマト。

手入れの行き届いた庭。夏はバーベキューも楽しみました。

元の庭(↓)とは大違い…です。

元はこんな感じでした。© Philip Surtees

キッチンに戻ってサラダを作り、飲み物を準備し、パンとアボカドもスライス。

チキンのローストも完成。食べやすくさばいて盛り付け。

2人の家を訪ねたのは日曜日でした。イギリスでは「サンデーロースト」と言って、日曜の昼にオーブンでローストした料理を食べる習慣があります。

さあ、いただきます!

ほどよくジューシーに焼けたチキン、とてもおいしかったです。

今日2人の様子を見ていて、ちょっと気づいたことがありました。フィルとRJのことを数年見てきたのですが、どちらかというと料理担当はRJだったはず。でも今日はほとんどの料理をフィルがこなしています。

「今日は私が来たから特別頑張ってくれてる?(笑)」と意地悪を言ってみると、「最近はフィルが料理するんだよ」とRJ。「僕の方が会社が遠いから遅く帰るということもあるんだけど、リノベが終わってからフィルはすっごく料理してくれるようになったんだ」。

フィルも嬉しそうに「家が快適になったから『ここが自分の家なんだ』って実感するようになった。だから料理も自然とするようになったし、家事が楽しいんだよ」と語ります。

改装を決めてデザインしたときも、最もこだわったのはキッチンだったそう。

「僕は田舎っ子だから、将来はファーム(農場)のような家に住みたいっていう夢があるんだ。畑をやったり鶏を飼ったりして暮らしたい。この家のキッチンはモダンだけれど、シェーカースタイルの戸棚に大きなキッチンボードがついていて、これはイングリッシュ・ファームハウスのスタイル。そういうデザインがいいなと思って、RJと一緒にデザインしたんだ」(フィル)

ランチだけでお腹いっぱいでしたが、スイーツなくして食事が終わるなんてありえないのもイギリス式。フィルもRJもかなりの甘党です。

市販のチーズケーキにラズベリーとブルーベリー、ホイップクリーム(スプレー式)を添えて。

物は少ないけれど、よく見るとこの家には2人が大切にしているもの、こだわったものがたくさんあります。チーズケーキの下に敷かれたトルコ製のタイルは、2人の友人が亡くなったとき、家にあったものを形見としてもらったもの。

廊下に飾られた絵はRJ“画伯”の作品です。

建築家だけあり、絵心もあります。

フィルのおばあさんが使っていた古い椅子。ミッドセンチュリースタイルの形が好きで、譲り受けたそう。修理して大切に使っています。

昨年2人で旅行した南アフリカのギャラリーで買い求めた石のオブジェ。ペリカンが3匹連なっている。重いけれど頑張って持って帰ってきました。

キッチンの棚の上ある古そうな陶器の瓶も気になっていたのですが、

これは古い湯たんぽ。昔、フィルの実家で使われていたものだそうです。

「Alexa」を使って音楽を掛けたり、週末には庭に置いた電気式のジャグジーで長風呂を楽しんだりと、イマドキな一面もありつつも、丹念に庭仕事に精を出し、野菜や花を育て、将来の農場で暮らすことを夢見ています。本当に好きなもの厳選し、心地よい「自分たち流」の生活空間を作り上げているのだと伝わってきます。

庭の塀は新しく作ったものですが、グリーンに塗って少し苔が付いた感じに。かと思えば、奥に見えるプールのようなものは電気式のジャグジー。

1年前、お風呂がないので仕方なく近所のスポーツジムに入会してシャワーを浴びにいっていた2人。「もうリノベ作業に疲れちゃった。永遠に終わらないかも。辛すぎるから引っ越したくなっているよ」なんて愚痴を言っていたけれど、2人で頑張ってここまで作り上げたのね。本当に素晴らしい…。

私も自分の家が大好きですが、自分でリノベしたわけではありません。DIYも万年1年生のまま全く昇級できずにいます。彼らレベルにはなれないけれど、でももう少し私も自分の手で家に手を入れられるようになりたい―― 2人の家を見て心底そう思いました。自分でできればもっと快適に、もっと楽しく暮らせるのかもしれません。

古い家は壊れやすいし手入れが必要なので何かと厄介です。でもだからこそこの国で「家を自分の手で直す」文化が成熟したのかもしれません。大変さもあるけれど、直す楽しみもある。自分で直すから、さらに家に対する愛情も深まります。

しばらく放置状態だった我が家のDIY、また「家の先生」に教えを請いつつ、頑張ってみようかな。2人の家からの帰り道、そんなことを思いました。