映画も飲食も充実!イギリス映画界の殿堂「BFI Southbank」

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

※記事内容は2022年5月5日時点の情報によるものです。

ぐんと春めいて来たと思ったら、4月末からまた一気に「花冷え」しているロンドンです。皆様、お元気でお過ごしでしょうか?

なかなか…ウクライナの戦争が終わらず、胸の痛い日々が続いています。先日、我が家の目の前で、ウクライナ支援の小さなイベントがありました。

ウクライナの民族衣装を着た人たちが賑やかに音楽を演奏し、ウクライナの料理や雑貨などを販売するバザー用のブースが立ちました。

音楽演奏の前に短い挨拶の時間があり、スピーチした人の中にはウクライナから避難してきたばかりの人もいました。まだ英語が堪能ではないので、ウクライナ語→英語の通訳を通してのスピーチでした。「私たちを受け入れてくれたイギリスに感謝しています。本当に寛容な国です。どうもありがとう」と涙ながらに語っていました。

私はイギリス人でもなく、何もしていないのですが、その場にいた人たちと一緒にホロリとしてしまいました

大きな花飾りを髪につけた女性がたくさんいました。とってもかわいかったです。

ウクライナの国旗の色のお菓子もたくさん売られていました。販売だけでなく募金もしていましたが、募金用バケツがどんどんお札で埋まっていきました。

早く戦争が終わってほしいと切に願っています。

英国映画協会(BFI)とは?

さて今回は、「英国映画協会(British Film Institute、通称BFI)」の拠点である、映画館&複合施設「BFI Southbank」について紹介したいと思います。

国際的な映画の賞として最も有名なのはアメリカ・映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)が主催する「米・アカデミー賞(通称『オスカー』)」ですが、イギリスにも「英国アカデミー賞(British Academy Film Awards)」があります。イギリス最大の映画賞として知られ、オスカーの直前に授賞式行われることもあり「オスカーの前哨戦」の一つです。「British Academy Film Awards」の頭文字を取り、イギリスでは「BAFTA(『バフタ』と発音)」と呼ばれています。

3月13日に授賞式が行われた、今年のBAFTAのハイライト映像。ロイヤル&アルバートホールでの授賞式の模様はBBCで生放送されました。

BFIとはイギリスにおける映像(主に映画とテレビ番組)の主導的な地位を担う組織です。宝くじファンド(資金)を使用した映像の制作、配給、教育、観客の開拓の支援を行っており、英国アカデミー賞(BAFTA)の主催も役割の一つです。

BFIは映画館を有した複合施設「BFI Southbank」を、「サウスバンク」と呼ばれるテムズ川の南岸に持っています。「英国映画協会」という響きは何だか物々しいのですが、BFI Southbankは映画を見るだけの場所ではありません。とても気楽に利用できる素敵な施設なのです。

テムズ側の南岸にある「BFI Southbank」

BFI Southbankの最寄り駅は、ロンドン中心部からやや南にある大きなターミナル駅「Waterloo(ウォータルー)」です。

様々な路線が乗り入れているWaterloo駅。主に、イングランド南部へ向かう列車の発着駅です。広いコンコースの上にガラス張りの屋根がついていて、光が差し込みます。

駅を出ると、鉄橋の向こうに丸い筒形の屋根が見えます。こちらはBFI Southbank(本館)ではなく、BFIは運営するIMAX専用の映画館「BFI IMAX」です。

いつかBFI IMAXの事もしっかり紹介できたらと思います。素晴らしい映画館です。

BFI IMAXでは最近スクリーンの交換が行われました。BFIの技術エンジニア部長がIMAXについて解説している動画ですが、20秒のところを見てください。BFI IMAXがいかに巨大な映画館かよく分かります。

BFI IMAXを右手に見ながらテムズ側の方に歩くと、「Southbank Centre」という巨大な文化施設の集合体が現れます。

写真左の建物は音楽ホール「ロイヤル・フェスティバル・ホール」、右の建物は美術館「ヘイワード・ギャラリー」。この他にも2つのコンサートホール、演劇用のシアター、ライブラリー、各種ショップ&レストラン等、たくさんの施設がこのエリアに集まっています。

大観覧車「ロンドン・アイ」のすぐ近くです。

テムズ川側からの眺めはこんな感じです。夜はライトアップされてきれいです。

BFI SouthbankはSouthbank Centreを構成する施設の一つであり、テムズ川に対面した場所に位置しています。

ガラス張りの外壁から、中のカフェエリアが見えます。

BFIは1933年に創設された組織ですが、1951年に現在と同じ場所に「National Film Theatre」を開館しました。2007年に建物の拡張工事を行い、名称を「BFI Southbank」と変えて再開館、現在に至っています。

1986年、黒澤明監督もNational Film Theatre時代に来館し、レクチャーを行いました。(BFIナショナルアーカイブのキュレーター長、ロビン・ベイカーさんのinstagramより)

中には大小4つのシアターがあります。新作映画から旧作の特別上映等、毎日さまざまな映画が上映されています。

最も大きいシアター「NFT1」(450席)。「NFT」は元の名称である「National Film Theatre」の頭文字から来ています。

シアターエリアは紫色にライトアップされ、独特の雰囲気が漂っています。

廊下にはBFI Southbankで上映された名作・旧作の貴重なポスターが飾られています。ポスターを見るのも楽しみです。

毎年秋に行われるロンドン映画祭のメイン会場の一つである他、年間を通じて様々な映画祭やイベントが開催されています。ロンドンに住む映画好きであれば、一度は来たことのある場所といっても過言ではないはずです。

毎年開催されているLGBTQIA+映画祭「BFI Flare」のトレーラー。

実は3月末~5月、私もプログラム選定に関わった日本アニメ特集が開催中です。

日本アニメ特集のパネルディスカッション。こうしたトークイベントも毎週のように行われています。

「誰もがくつろげる場所」を提供

映画協会の映画館なので上映コンテンツが充実しているのはある意味当然なのですが、先にも書いたように、この施設の素晴らしいところは本当の意味で「市民の憩いの場所」となっている点なのです。

広いロビー。このエリアでも展示やイベントが開催されます。

入館はもちろん無料。映画関連商品が充実したショップに加え、大きなカフェ&バーが2つ併設されています。

レアなDVDやポスター、映画関係書籍が充実したショップ。プレゼント用の雑貨等もあります。

お酒も飲めて食事もできる「BFI BAR & KITCHEN」。カクテルも目の前で作ってくれます。営業時間は12:00~22:00(土曜は11:00~、日曜は~21:00まで)なので映画を見た後も場所を移動せずここで寛(くつろ)げるので便利。

ロビー横にライブラリーもあります。誰でも利用でき、もちろん無料です。

私がもっとも好きなスペースはこちら↓。

ロビー周りにはたくさん椅子やクッションが置かれていて、自由にのんびりできるのです。子どもを連れた家族連れもよく見かけます。

クッションエリアの裏にはビデオブースもあります。ここも楽しい場所です。

2階部分は写真ギャラリーになっています。たくさん椅子も置いてあるので、ドリンク持参でここに来て長々おしゃべりを楽しむ人も。

広々としたスペースを活かし、本当の意味で市民がゆっくりできる場所を提供しているのがロンドンにある施設らしいなと毎回感じます。この場所で待ち合わせをしたり、本を片手にやってきて何時間も読書をしたり、様々な利用法で皆このスペースを楽しんでいるように感じます。

一歩外に出ると、そこはテムズ川。お天気の良い日に散歩すると本当に気持ちが良いです。

天気がイマイチの日に撮影してしまって残念でした…。天気の良い週末は人でいっぱいになります。

敷居が低い「映画の殿堂」

「映画の殿堂」ではあるものの、敷居が低く、誰もが楽しめるのがBFI Southbankの良いところです。

Withコロナの時代となり、近隣諸国からの観光客を見かけるようになったロンドンですが、ウクライナの戦争もあり、日本からイギリスに来るのはまだまだ大変かもしれません。いつかすべてが終息し、ロンドンに観光でいらっしゃる機会があったら、この場所にもぜひ立ち寄ってみてください。

映画好きはもちろんのこと、観光中のひとやすみにもぴったりです。

来月、このコラムを更新するとき、すべての事態が好転していることを願っています。皆様もどうかご自愛ください。

※写真はBFIに許可を得て撮影しました。
BFI Southbank
https://whatson.bfi.org.uk/