築120年の家に引っ越し。これから大変です…。

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
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※記事内容は2022年9月7日時点の情報によるものです。

40℃を記録したかと思うとしばらく涼しい日が続いたり。そんな異常気象を肌で感じた夏でしたが、8月末からはずっと20℃台前半が続いています。

今の時期に「いよいよ夏が終わったね」という会話が交わされるのは毎年のことです。しかし今年は、これで終わりません。現在イギリスで大問題となっているエネルギー料金(ガス&電気)の高騰に、誰もが不安を抱えています。暖房費が不要になった4月に1度値上げがありましたが、10月に再度値上げ予定となっているからです。

あまりに値上がりしているエネルギー料金。この事態に適切に対処しない政府とエネルギー会社への抗議するため「10月1日、エネルギー料金の支払いをストライキしよう」という市民団体が創設されました。大きな注目を集めています。

「こんなに早く寒くなって…。もうすぐ暖房費が恐ろしく掛ると思うと不安で仕方ない」「この冬が極寒だったらどうしよう。暖房をそんなにつけられないかもしれないのに」と、皆同じことを話しています。

そんな中、新首相が誕生しました。エネルギー問題を解決しないと保守党が次の選挙に負けるため、そこから着手すると思われます。

夏が苦手な私です。しかしそんな私でさえ、例年どおりの「爽やかな夏日」であれば、もう少し続いてほしかったと思っています。そんな不安を抱えつつ、ロンドンは秋に向かってまっしぐらに進んでいます。

8月に引っ越ししました。「絶望」から始まった新居生活

3月更新の本コラムで「引っ越しするかも…」について書いたのですが、

記事『新しい家探し。我が家の「新章」のスタートとなるか!?』はこちらから。

2015年に南西ロンドンで購入した2寝室型フラット(マンション)からの住み替えを考え始めて1年。南ロンドンの街に焦点を定め、具体的に家探しを始めてから半年たった、8月半ばに引っ越ししました。

…と書いてしまうとなんだかアッサリなのですが、この半年の血と汗と涙の戦いは筆舌に尽くしがたいものがあります。今回、新しい家(地面付き戸建て)を買ったのですが、まずは家購入プロセスが大変でした。前回の購入でも散々苦労したのですが、今回もローン組みから保険の処理、契約、弁護士や不動産屋との交渉や催促等、細かいことから大きなことまで戦いの連続。ガイジンとして暮らす私と夫(共に日本人)には許容量を超えた戦いを強いられました。

このプロセスの大変さについては話すとあまりに長く細かい話なので割愛しますが、今回は「購入成立」直後のことについて書きたいと思います。具体的にはカギをもらったその日に「絶望」という名の絶壁に突き落とされたからです。

一歩足を踏み入れただけで覚悟した「古い家」の大変さ

今回の住み替えの目的は収納スペースの確保のためです。ですので、庭付き(小屋が置ける)、2階建て(屋根裏スペースを倉庫として使える)の家を探しました。購入したのは多分ビクトリア時代(120年超)に建てられたテラスドハウス(=長屋スタイルの家)です。長屋の端に位置する家なので「エンドテラス」は呼ばれます。エンドテラスの場合、道路から庭に直接アクセス可能なのでとても便利です。

こんな風に長屋スタイルの住宅をイギリスでは「テラスドハウス(Terranced House)」と呼びます(※この写真は我が家ではありません)。イギリスでは戸建ての家のほとんどが古い家なので、築120年は「普通の家」です。

購入までに内覧したのは2回。間取りだけでなく、水回りや建て付け、「修理必須」箇所がどのぐらいあるか等、私達なりに頑張って確認しました。加えプロの調査士による「サーベイ(Survey)」と呼ばれる建物の調査も行い、構造上の問題がないことは確認済です。

しかし家には見えない部分もたくさんあります。本当のところは住んでみないと分からない…というのがイギリスの家、特に古い家の共通点です。

とにかく売ってしまえば何が発覚しても、それは新家主の責任下になります。売りたい方は「さっさと売るため」に都合が悪い点は隠そうとするので、内覧では分からない事だらけ。「ある程度の修理」は覚悟してこの家を買うことにしました。

「蔦」ならぬ「蔓」の絡まる家

「購入成立」が8月15日なのはその1週間前から分かっていました。そこでこの日に新居で不動産屋さんからカギを受け取り、翌8月16日を引っ越し日と設定しました。

午前中に「購入成立」のお知らせが弁護士から来て、午後4時半に不動産屋さんと新居前で待ち合わせ。行ってみると…蔦(つた=アイビー)ではなく蔓(つる)が生い茂り、垣根も盛り上がるほどボウボウに伸びていて、うっそうとした状態になっていました。

程よい緑は風情がありますが、これではまるで空き家のようです。

蔦は強い植物なので外壁を痛めることで知られています。蔓の方が柔らかいのでややマシかもしれませんが、いずれにしても家を守るために撤去する必要があります。3月に内覧に来た時もそこそこ茂っていましたが、ここまでではなかったのです。

同じ家に見えないかもですが、オレンジの車の左側の家です。3月はこの程度でした。

売主さんは「どうせ売る家だから」とまったく手入れしていなかったことが一目見て分かりました。「立つ鳥跡を濁さず」的発想はイギリスにはないので、仕方がないことです。でも何だか…嫌な予感。

不動産屋さんからカギをもらい、いよいよ中へ…と思ったのですが、あれ!? 玄関ドアが開かないんですけど!

カギは壊れていないものの、ドアの建て付けが悪い様子。防犯上「開きづらいドア」は悪くないかもしれませんが(笑)、日々の生活には困りそう。玄関周りも修理をしないとならないことが判明しました。

何とかカギを開けて入りました。

内覧時、売主さんの「売る気満々度」が感じられる程度にはインテリアが整えられていました。

今年3月、内覧時に撮影した写真です。花を飾ったり、額を飾ったりと頑張って綺麗に整えてありました。

売主は「購入完了日内」に引っ越ししなくてはならないのがルールです。なので、数時間前に引っ越したばかりの家はある意味「夜逃げ直後」と同じ状態。ある程度汚れているのはいいのですが、私達にとって重要なのは、

●修理事項がどのぐらいあるのか?
●DIYで直せるレベルなのか?
●大工さんや水道屋さんを呼ぶレベルなのか?(高額工事が必要か?)

そして何より
●明日引っ越しなのだけど、すぐに住めるレベルの家なのか?

ということでした。

家具がなくなった室内は、私の目には内覧の時よりも狭く感じました。ここでまたがっかり。そして思ったほど汚くはなかったものの、少し室内を歩いただけでどんどん問題を発見してしまったのです。例えば…

■内覧のときから気になっていた、キッチン蛇口の「水ポタ」

内覧時の写真です。半年も水ポタ放置って、水道代は気にならなかったの?と不思議。結構な速度での「水ポタ」なのです。新しい蛇口を買って付け直さなくてはなりませんが、DIY仕事ではないのでコストが掛ります。

■ガス台の上の換気扇フィルターから「黒い雨」

換気扇フィルターがベタベタだったので外してみたら、中のモーターに付属していた脱臭フィルターが溶けていて、脱臭用炭の粒がダーっと落ちてきました。まるで黒い雨。

他にも
■すべてのドアの建て付けが悪い(トイレのドアも閉まらない。工事必須)
■内覧では隠れていた暖房用ラジエーターが壊れている様子(工事必須)
■キッチン下にある配線カバー(板)が壊れている(工事必須)
■食洗器が壊れている?(かもしれない。汚すぎるだけ? 買い替え必要?)
■洗濯スペースの洗い場の蛇口がガタガタ…(交換必須)
■オーブンの中がベタベタ
…実はまだまだあります。掃除をすれば解決するような小さめ問題も入っていますが、半径2mだけで問題が泉のようにあふれ出ます。

そして私達をもっとも絶望に陥れたのは、キッチンの蛇口をひねった時のこと。水が流れていく音が床下からハッキリ聞こえるのです。

まるで「家の中に小川が流れている!?」かのように「ザーッと」…妙な音。

音の元をたどっていくと、庭に続くユーティリティスペース(洗濯機が置いてあり、水道が設置されている場所)から聞こえる様子。洗濯機の横の小さな扉をあけると、そこに小川が…あったのです(涙)。

この扉を開けると、床に穴が開いており、「小川」もどきが流れているのです。そしてすべてのパイプが複雑に絡んでいました(あまりに見苦しいので、扉の写真のみにします)。

キッチンとバスルームから流れ出たすべての使用済み上水がこの「小川」に集まり、そこからパイプで公共の排水溝に流れていく、という100年前の古い水道構造が残っており、水の流れが丸見え。

「えっ、これって…アリなの?」

が最初の印象でした。大昔ならフツーなのでしょうが、すでに洗濯機や庭に続く電気配線がこのユーティリティスペースに張り巡らされており、漏電したら大変なことに。かつ排水溝から虫やネズミがあがってきたらどうしよう?という不安も頭をかすめ、このままでは絶対にNGだと、素人の私にもすぐに分かりました。

この部分を全部工事する場合、水道業者、大工さん、電気技師を呼ばねばならず、一体いくらかかるのか分かりません。恐怖に震えた瞬間でした。

2階にも問題たくさんありました。屋根裏に行くためのハシゴが壊れていたり、バスルームについている蛇口が2つ、ぐらぐら。電源コンセントもいくつも使用不可。壁のシミもどうにかしなくてはなりません。

屋根裏の戸袋を開けると、ハシゴが金具からはずれていたのでこの日は登れず。

家を買ったばかりの私達。お金なんてもう全然ないのに、プロに頼まなくてはならない問題が山積。しかも新しい土地ですから、水道屋さん、大工さん、電気技師さん等、業者さんを誰も知りません。

カギをもらった帰り道、バスの中で私は泣きたい気持ちでした。購入初日にして「この家購入、失敗だったかも」と絶望したからです。

「街の規模」的は、新居の街の方が大きいです。鉄道の本数が多いので、ロンドン中心部には出やすくなります。

とは言え、泣いている時間なんてないのです。なぜなら翌日、朝9時から引っ越しだったからです。重い気持ちで夜中までかかって最後の荷造り。この日は本当に辛かったです。

引っ越し日に「救いの神」。感謝でまた泣きそうに

絶望から一夜明け、朝9時に引っ越し屋さんがやってきました。

7年住んだこの家とも、しばしお別れ。借主さんに幸せに楽しく住んでほしいです。

7年間、断捨離に務め、物を増やさないように頑張ってきたのですが、この大型トラック1台に何とか押し込むぐらいの大量の荷物がありました。人間は生きているだけで荷物が増えるのだと実感しました。

力持ちで陽気な引っ越し業者のお兄さん2人に助けられ、何とかトラックに荷物を詰め込み新居へ。

引っ越し荷物搬入中。箱、箱、袋、箱…で足の踏み場もない新居。

やっと搬入が済んだものの「さてここからどうしよう?」。何から手を付けたらよいのやらとしばしボーゼンとしていたところ、スマホが鳴りました。車で15分ほどの場所に住んでいる、F夫妻(在英45年の日本人夫妻)からでした。

「届けたいものがあるので、今からちょっとだけ行ってもいい?」

きっちり15分後現れたF夫妻。なんと、冷やし中華、お赤飯、煮物や炒め物等、大量の差し入れをもってきてくれたのです。その上「まだお皿が箱からでてないでしょ?」とお皿やコップ持参。紅茶やミルクも持ってきてくれました。

今日は買い物も行けないし、テイクアウトも面倒。元気もないし、今晩はご飯食べなくても良いかも…と思っていた矢先に、温かく、何より美味しいご飯の差し入れ。涙が出るほど嬉しかったです。

そして「次に来た時は庭仕事手伝うね」と、花やハーブ類の苗木も置いていってくれました。

実はこの倍量以上の苗をもらい、その後も何度も来て庭仕事をしてくださっています。感謝の言葉もありません。お料理に加え、ガーデニングも得意なご夫妻です。

たっぷり食べてお腹がいっぱいになった頃、もう一人来客がありました。歩いて数分の場所に暮らす友人のフィル君が仕事を終えた後「引っ越しおめでとう」とワインを持ってやってきたのです。

このコラムにも何度か登場しているフィル君。彼の家を取材させてもらい(2018年4月「これが英国レベルのDIY!2人で作りあげた『スイート・ホーム』また家探しも手伝ってくれた恩人です。フィル君がこの街に住んでいて土地勘があったので、近所に家を買いました。

「何か手伝うこと、ある?」

正直何から手伝ってもらっていいやら分からなかったのですが、室内の壊れた箇所と荒れ放題の庭(←この部分も長い話なのでまたいつか)を見せ、「業者さん探しからやらなきゃ」と青い顔をして説明しました。

すると「ふ~ん、なるほどね。でも僕が直せる部分も結構あるし、業者に頼めば全部直せるから大丈夫!」と明るい声で言ってくれました。そして「ちょっと待ってね」と言って一度家に帰りました。

20分後に大量の工具類を携えて再びやって来た彼。

「キッチンの下の配線カバーからやろうか」と、電動のこぎりと研磨機を取り出し、修理を始めたのです。

修理中のフィル君。こういったプロ用の工具も順次揃えていかないと、古い家は維持できないそうです。配線カバーがないことでアリが入ってきていたのですが、修理後それもなくなりました。

あっと言う間に配線カバーは直りました。本当に有難いです。

F夫妻の美味しい食事がまだ大量に余っていたので、フィル君にも食べてもらいました。食事をしながら修理ポイントの優先順位を相談していたのですが、そこにF夫妻から再び電話がかかってきました。

「良い水道屋さんと大工さんを紹介するので、すぐに見積もりに来てもらった方がいいですよ。特に水道問題と暖房ラジエーターは冬が来る前に直さないと」

と語り、連絡先を教えてくださっただけでなく、すでに水道屋さんと大工さんと話してくださったとのこと。

F夫妻とフィル君の励ましと具体的なアドバイスをもらった引っ越し初日。新生活が大変なことは決定ですが、「きっと解決する」と思えました。心配性の私は前日からずっと憂鬱だったのですが、この段階で「頑張ろう」と思え、この日は眠ることが出来ました。

翌日には水道屋さんがやってきた!

F夫妻が手配してくれた水道屋さんは、何と引っ越し翌日に来てくれました。

とても丁寧に見てくれて、修理箇所を絵に描いて説明してくれました。

問題点がたくさん分かりましたが、大きな問題としては

*ユーティリティースペースの配管&電気配線のやりなおし
*暖房ラジエーター、少なくとも3つは交換

この2つは絶対やらないとなりません。

細かい問題は大きな工事の最中にちょっとずつやっていこうということになりました。

この日から、大工さんとハンディマンさん(大物ではない修理仕事を請け負ってくれる人をイギリスではそう呼びます)が次々にやって来て、見積もりや修理が始まっています。

屋根裏へのハシゴを組み立て中のハンディマンのサムさん。先週末、ハシゴは無事設置できました。しかし屋根裏の断熱材の状態がひどかったので、ここにもコストが掛ることが判明しました(涙)。

やることがたくさんありすぎて、まだまだ大変です。一気に工事するお金もなく、優秀な業者さんはいつも多忙なのでそう簡単に予約できません。優先順位を付けて長い目でやっていくしかなさそうです。

手つかずの庭。大きな月桂樹がお隣に迷惑をかけているので、木をどうにかしなくてはなりません。太い枝だけ少し切りました。なかなか庭の手入れまで行きつけません…。

新居での暮らしを楽しめるまでにはもう少し時間が掛かりそうです。でも友人たちの温かい助けがあるので、何とか頑張れそうです。

居間部分だけ、暮らせる程度には整えました。でも壁には売主さんが額縁や鏡のために開けた穴がたくさんあり、また壁中のペンキも剥げて汚れています。

前の家から持ってきた額縁も少しずつ設置しています。

この家を通して、さらにディープなイギリスの生活が見られたら…とは期待しています。その詳細を、このコラムで書いていきたいです。