クリスマスがやってくる

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

クリスマス前は大渋滞のピカデリーサーカス付近。この場所から人っ子ひとり消え去るのがクリスマス。Photo: Nobu Asada

みなさま、こんにちは。現在ロンドンはクリスマスムード一色です。

今年は(12月初頭の現在)暖かい日が多いのですが、それでも朝は8時過ぎまで陽が昇らず、午後は4時にはもう真っ暗。クリスマスは長い冬が続くイギリスにとって、温かな灯りのような時期だなあと毎年思います。

多文化共生の国なのですべての人がクリスマスを祝うわけではないものの、クリスマスから元旦までお休みが続く「フェスティバルシーズン」は賑やかです。

10月末のハロウィン終了後直ちにクリスマス商戦は始まりますが、11月初頭に次々とクリスマスイルミネーションが灯ると人々の気持ちはクリスマスにぐっと寄っていきます。

ロンドンの目抜き通りの1つ、リージェント・ストリートのクリスマス・ライト点灯式の様子。

リージェント・ストリートはここ数年、エンジェルが羽を広げた形のイルミネーションが定番です。Photo: Nobu Asada

セブン・ダイアルズ(観光地として知られるコベントガーデンの近く)。街並みに良く似合う雪の結晶が素敵です。Photo: Nobu Asada

ユーロスターの発着駅であるセント・パンクラス駅のクリスマスツリー。今年はティファニーがスポンサー。ティファニーブルーのツリーが話題になっています。Photo: Nobu Asada

日本とイギリス、異なるクリスマスの過ごし方

日本ではクリスマスは「恋人と過ごす日」であり、“イブ”の方がクリスマス当日よりも賑やかだったりしますよね。

しかしイギリスに暮らし始めて1年目の冬、日本で思い描いていたものとはまったく異なるクリスマスがこの国(及び西欧諸国)の定番なのだと知り、かなり驚きました。

欧州ではクリスマスは「家族の日」。この日ばかりは恋人同士も別行動、家族と過ごすために各々の実家に向かいます。雰囲気としては日本の「お正月」にあたるのです。

ロンドン中心部にあるカーナビ―・ストリートはプレゼントを買う人たちでいっぱい。道を歩くだけでも大変です。Photo: Nobu Asada

日本の年末帰省ラッシュ同様、クリスマス前にはたくさんの人々がロンドンから脱出します。ロンドンには外国人もたくさん暮らしているので、さながら「民族大移動」です。そして24日夜から26日(←祝日です)朝まで公共交通機関がすべてストップし、スーパーをはじめほとんどのお店も閉まっているのでこの期間は家にこもるしかありません。通常は人であふれるロンドンがまるでがらんどうのような静けさに包まれるのです。クリスマスの本番は“イブ”ではなくてあくまでクリスマス当日。24日までは働く人も多いのですが、夜までには「大移動」を終えます。そして25日に家族みんなでご馳走を食べながらクリスマスをお祝いします。

10年以上前、ロンドンでの初クリスマス直前にこの“日本との違い”を知りました。まだ来英したばかりだったので一時帰国の予定はナシ。同じフラットの住人たちも皆帰省してしまい、「家族のいない国」にいる寂しさを身に染みて感じたのを覚えています。行く場所もないのでひとり寂しくクリスマスを過ごすしかないのかな?と思ったのですが、出会ったばかりのブラジル人の友人が「家に泊まりにきて!」と誘ってくれました。ブラジルも遠い国。「帰省できなかった友人が集まって夜通しパーティーをするから」と、仲間にいれてくれたのです。

あのときの救われた思いと、その後楽しく過ごした3日間を今も感謝して思い出します。彼女はもうブラジルに帰ってしまったけれど、今でもクリスマスになると連絡し合う友人です。

近所のガーデンセンターにて。キャンドルはクリスマスの必需品です。

我が家の小さなクリスマス

日本人2人家族の我が家。毎年クリスマスは帰省や帰国をしなかった友人たちと過ごしていますが、昨年からクリスマスの楽しみが1つ増えました。それは「本物」のモミの木を飾ることです。

11月末になると街角で大小さまざまなモミの木が売られているのを目にします。

お花屋さんの一角で売られていたり… Photo: Nobu Asada

パブの駐車場が期間限定「モミの木即売所」に。Photo: Nobu Asada

白いネットに入って持ち運びやすいように売られていますが、頼むとネットを破って枝ぶりを見せてくれます。「これに決めた」と言うと、またネットを掛けてくれてそのまま持ち帰るのですが、お店によっては家までデリバリーしてくれる場合もあります。

小さなサイズでも15ポンド(約2000円)程度。すごく高くはないけれど、ものすごく安いわけでもありません。毎年「買いたい」と思いつつも何となく躊躇していたのですが…昨年「クリスマスにお客様も来ることだし…」と理由をつけ、思い切って初買いしてみました。

hanakoさん(@hanako_london)がシェアした投稿

たかがモミの木。されどモミの木。買いたいのに何となく躊躇していたワタクシ。家のすぐそばのモミの木即売所の前で何度もプチケンカを繰り返し、最後は旦那のヒトに押される形で購入しました。(ときどき更新しているイラストのアカウントです)

そのとき小さなドラマがありました。モミの木を立てるためにはスタンド(土台)が必要です。木を買うと輪切りにした木の真ん中に溝が入ったスタンドをサービスでつけてくれます。その場でスタンドの溝に幹を突っ込んでみたものの、枝の根本にほんのちょっとだけ凹凸があったため、幹が溝に入りません。

自宅フラットの前で2人で糸ノコ片手に1時間ほど格闘してみたのですが全くうまくいかず。「やっぱり買わなきゃよかった…」の言葉が口から出かかるほど雰囲気最悪になりかけたとき、通りがかりの男性が「僕、大工なんだ。すぐそこの車に大工道具を全部積んであるからやってあげるよ」と声を掛けてくれたのです。

大工さんはあっという間に鉈で幹を切り、ズンっと溝に差し込んでくれました。その間1分ほど。そして笑顔で「メリークリスマス!」と言って去っていきました。ほんのわずかな時間で起こった事ですが、心が温まる出来事だったのでクリスマスツリーが道端で売られているのを見ると大工さんの優しさを思い出します。

そして今年も買いました!

高さは1mぐらいの小さなモミの木。昨年の反省があるので、すでにスタンドが装着されている木を選んで買いました。生のモミの木は本当に良い香りで、家中がフレッシュな緑のアロマに満たされます。

イギリスではクリスマスが終わっても1月頭まではクリスマスツリーを飾っておきます。モミの木は枯れてくるとパラパラと葉が落ちてしまいます。早く買いすぎると「パラパラ」掃除が大変ですが、早くから素敵な香りが楽しめます。反対に遅く買えば最後まで美しく元気な緑のままですが、楽しめる期間も短くなります。その辺の「買い時」が難しいのです。

昨年も今年も派手な飾り付けはせずシンプルに。てっぺんには星の代わりに赤い鳥をぶらさげています。

相変わらず何もない殺風景な居間なのですが、この子(ツリー)が来ると嬉しくて、用もないのに居間に見に行ってしまったり(笑)。根元に水をたっぷりあげて、約1か月間、モミの木アロマを楽しもうと思います。

皆様もどうか楽しいクリスマスをお過ごしください! メリークリスマス!