壁インテリアの楽しみ

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

日本も寒い日が続いていると思います。皆様、お元気でお過ごしでしょうか?

この冬は暖かい日が多く「私がロンドンに来て以来、もっとも暖かい冬」と言いまくっていたほどで、昨年末はダッフルコートを着ていると汗をかいたり、手袋をはめずに外に出ても大丈夫な日もありました。しかし1月になって気温がドンと落ち、現在はちゃんと「ロンドンの冬」らしい寒さの毎日です。

冬だけ見られる、荘厳さを感じられる自然の景色も大好きです。

私は冬が大好きです。イギリス人は天気の話題が大好きで、長くて暗い冬を愚痴り、短くてさわやかな夏を恋しがる系の話を飽きずにずっとしています。なので「冬が好き」と言うと、ほぼ全員に「どうかしてるよ…」的なかなり冷たい眼差しを向けられますが、その反応にももう慣れました(笑)。私はもともと寒冷地好きで夏の明るさよりも冬の静かな佇まいが好きなのですが、実は矛盾するようですがロンドンの冬は「寒いけれど暖かい」のです。外はしっかり寒いのですが、室内は日本のよりずっと暖かいため、とても過ごしやすいと感じています。

イギリスの一般住宅の暖房はラジエーター(放熱器)式のセントラルヒーティングです。管の中に温水が通り「じわじわ」と部屋が暖まります。エアコンのように速攻で暖かくはなりませんが、乾燥しないので柔らかな暖かさです。日本の住宅は暑い夏を快適に過ごすための作りになっていますが、イギリスの住宅(特に集合住宅)は気密性があり、長い冬をしのぐための作りになっています。ラジエーターを稼働させる時間と温度調節にもよりますが「家の中では冬でもTシャツで過ごしている」という人も多いほどです。

我が家のラジエーター。それほど優秀でもないのですが、つけると10分程度で室内の気温が変わります。

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こんな形のレトロな形のラジエーターを新たに取り付ける家庭も多いです。私もクラシカルな模様に憧れますが「厚みが増す=部屋が狭く感じる」のが難点。全部このデザインだとやりすぎな気がしますが、どこか1か所だけでも変えると可愛いかもです。

冬に一時帰国した際、エアコンをつけずに夜中仕事をしていると室内なのに吐く息が白くなって驚いたことがあります。ロンドンの我が家は「Tシャツでいられるほど」の温度設定にしていませんが、ヒーターをつけていなくても白い息になることはありません。外は痛いほどの寒さですが、家の中に入るとゆっくり体が緩む…その感覚が気に入っているので、ますます冬好きに拍車が掛かっています。

「壁インテリア」の難しさと楽しさ

冬談義が長くなりましたが、我が家は「寒そうな家」と言われることが多いです。理由は壁も天井もひたすら真っ白で、ドライフラワーを飾った一部の壁を除くと装飾も家具も少なく、「触ると、ひんやり冷たそうな家(←友人コメント)」だからだそうです。そういう何もないインテリアが好きなので仕方ないのですが、そうですね、確かに何もなさ過ぎて寒そうではありますね(笑)。

居間のドアからの廊下を撮影。狭い我が家ですが「装飾ゼロ地帯」の割合が高すぎる…というのはあります。

12月に撮影した写真です。この写真をインスタにアップしたら「ほんとに何にもない家なんだね!」と笑われました。

でもこのそっけない白壁が気に入ったこともこの家を買った理由です。以前はフラットシェアや賃貸暮らしだったので、壁を自由に使ったインテリアは難しかったです。「壁を傷つけても、引っ越すときに埋めてくれたらOK」という心優しい大家さんもいるにはいますが、私の場合は「現状維持」という約束で借りた家ばかりだったので、ちょっとでも傷つけるのが怖くて手を出せませんでした。イギリスの住宅はクロス(壁紙)より漆喰+ペンキが多いので、汚れるとペンキを塗りなおさないときれいにならない、ということもあります。

季節ごとに壁に飾る絵や写真を変える暮らしに憧れていましたが、今の家を買ったことでやっと手にした「やりたい放題できる白壁」。でも実際には面倒くさがりな性分ゆえ、「季節ごとに」なんて全然無理でした(笑)。ドライフラワーは「草花を買ったついでにドライにして、壁にひっかける」を繰り返すだけで、計画的にやっていないので楽ちんなのですが、絵や写真等の額縁を飾る方が難しいなと思っています。あくまで私の場合は、ですが、同じインテリアでもオブジェ等を「置く」インテリアよりは断然ハードルが高いです。

飾りたい絵や写真は割とすぐに見つかり、合う額縁を探すところまでは楽しいのですが、いざ「飾る」となると配置やバランスがしっくりくる組み合わせが難しく、なかなかうまくできません。

イギリスには額装専門店も多く、大きな絵や写真や高額なアート作品の額装はお店に頼む人が多いと思います。しかし額縁とマット台紙(英語では「マウント」と言います)を用意して、自分で額装する人も多いです。新品の額は額装専門店だけでなくインテリアショップやIKEAやフライングタイガーでも売っていますし、中古の額縁はアンティークマーケットやイギリス全土、どの町にも必ずある「チャリティーショップ」で安い値段で販売しています。

チャリティーショップで額縁探し

チャリティーショップとは、チャリティー団体が運営している店です。イギリスでは多くのチャリティー団体が路面店を持っており、周辺住民から寄付された様々な中古品を販売しています。「もう我が家には必要ないけれど、でも捨てるには忍びない」―― そういった品々(衣服、食器、書籍、DVD、おもちゃ、アクセサリー、家具等)を人々がお店に寄付し、お店はその中から売れるものを仕分けて販売。売り上げが活動資金の一部になるしくみです。チャリティーショップには掘り出しものも多く、私も我が家の前のストリートに7軒もあるチャリティーショップを定期的に覗いています。

こちらはガン研究を支援する団体「キャンサー・リサーチ UK」運営のチャリティーショップです。キッチン用品が充実しています。

チャリティーショップで販売されている額縁。額縁だけで売られている場合も、中に絵が入ったままの場合もあります。ガサゴソ物色してお宝を探します。

我が家の額縁の大半は近所のチャリティーショップで購入しました。適度に古ぼけた良い風合いの額縁が200円ぐらいの値段で買えるのですから嬉しい限り。中に入れる絵や写真は、美術館で買ったポストカードやアンティークマーケットで買った古い版画や古書のページ、雑誌の切り抜き等がほとんどで、高価なものは1つもありません。でも全部気に入って手に入れた「好きなもの」ばかりです。

こちらはデンマークの蚤の市で買った古い版画。マット台紙がついた状態で販売するのはアイデアだなあと感心しました。買う方も一手間省けます。とはいえ「ものぐさ太郎」のワタクシ、買ってから1年以上たちますがまだ額装していません。チャリティーショップを覗いてはゆっくりと合う額縁を探し中です。

救世主は、はがせるタイプの「壁用強力テープ」

絵と台紙、そして額縁を組み合わせ「どこに飾ろうかな」と考えるのが壁インテリアの楽しみの“はず”ですが、部屋がうるさくなりすぎず、でも程良いインパクトを…と思うとその辺のバランスが本当に難しい。思考錯誤しているものの、壁インテリアにはなかなか正解がないなあと感じています。配置センスに自信がなさすぎて「釘を打つ」となるといつまでも何も飾れません。なのでひとまず壁には釘を打たず、傷をつけずにはがせるタイプの壁用強力テープで仮貼りしています。

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日本にははがせるタイプのインテリア用両面テープがたくさんありますよね。イギリスではオプションはあまりないのですが、この「Command」は優秀です。種類によって耐荷重が異なりますが、7キロまで支えられるものもあり便利に使っています。日本でも通販で買える商品です。

「いつか心が決まったら釘を打って固定しよう」と思いつつ、実は現在に至るまで仮貼りのまま。年に1度の頻度でテープを貼り変えています。でも「いつでもはがせる」「位置を変えられる」気楽さがあるからこそ、私のような小心者でも壁インテリアにトライできるので「壁用テープさまさま」です。

額縁や中身の色や形を混ぜて配置するような難易度が高いコーディネートもムリ!と最初から諦め、場所ごとに何となくのテーマを決めて配置しています。

居間は1つの壁にドライフラワーを飾っているので、この壁は一応「植物しばり」にしています。額縁はチャリティーショップで買った中古品ですが、金ピカが気になった真ん中の額はコーヒーで少し汚しました。右上と左下の2枚の絵はアンティークマーケットで買った標本版画のばら売り。あとの4枚はポストカードです。

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活版印刷機で印刷されたスノードロップ、クリスマスローズ、菫のポストカードは、大好きな「botaniko press」さんの作品。定期的に購入し、友人へのお便りに使うだけでなく壁にも飾っています。

廊下は黒の額縁だけを使い、色味の少ない絵柄をメインにしています。もう少し小技を利かせてみたい気もしますが、まだまだインテリア初心者なので現在のところは「まとめる」ことでバランスをとるのが精いっぱいです。

玄関を入ってすぐにこの「白黒」が目に入るので「寒々しい家」と言われるのかもしれません。

今年試したい壁インテリアは「フレッシュグリーンのアーチ」

シンプル&ミニマルばかりを考えると壁インテリアは何もできないことになり、でもちょこっとぐらいは何かしたい。そのはざまでぐるぐるしている私ですが、今年試してみたいと思っているのは最近レストランやカフェで見かけることが多くなった、フレッシュな緑を枝ごと壁にドサリと飾るフレッシュグリーンのアーチです。

まだ瑞々しい緑の枝を大振りのまま盛るように飾ることで、香りと色を楽しむものです。割とボリュームのある分量で飾られているものを良く見ます。鉢植えや切り花とは異なり、部屋の中にオアシスがあるようで、癒されます。

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イラストレーター&フォトグラファーのAaar Mancheさんのアカウントから。壁の装飾がフレッシュグリーンだけ、というのもいいなあとこの写真を見て思いました。

ロンドン中心部から南、地下鉄Balham駅の近くにある大好きなカフェ「Milk」のインテリアから。レジ横にいつもフレッシュ・グリーンがディスプレーされています。

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フードスタイリング・スタジオ「Food Bandits」のアカウントから。こんな風に大きなリースにするのも素敵です。

先月年始用の花を仕入れにフラワーマーケットに行きましたが、びっくりするほど大量のグリーンを買っている人を何人も見かけました。今思えばこんな風にアーチやリースにして飾っているのかもしれません。居間の壁に2年ほどかけてドライフラワーを増やしてきたのですが、この辺で少しずつフレッシュ・グリーンに交換してもいいかも、と現在思案中です。ハーブを混ぜるとさらに素敵な香りになるかもしれません。

まだまだ開発途中の「壁インテリア」。そのうち「天井インテリア」も含めて楽しんでいけたらな、と思います。