晩夏が旬!?ローカル流のビーチでの過ごし方

小林夕子 
オーストラリア・メルボルン在住会社員。アメリカと日本で幼少期を過ごした後、日本では映像関連会社に勤務。現在はメルボルンで通訳・翻訳業務に従事している。余暇の楽しみは映画館、美術館、図書館、マーケット巡り。

3月に入って、夕方に外を走っていると日が短くなってきたことを実感する今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか?

メルボルンはこれから秋が始まろうかという時期に差し掛かっていますが、それに抗うように時より30℃以上の夏日に恵まれます。そういう日は真っ先にビーチに詰め寄せるのがオージー流の晩夏の過ごし方。メルボルンに引越してから、このローカル流のビーチの過ごし方にすっかりハマってしまいました。

今回は、オーストラリアの文化を語る上で欠かせないビーチについてお届けします。

ビーチ遊びは2~3月がベストシーズン

オーストラリアのビーチといえば、ゴールドコーストやシドニーを思い浮かべる人がいるかもしれませんが、メルボルンのローカル・ビーチも他都市に引けを取らない美しさを誇ります。

人が少なくて穴場スポットが多いモーニントン半島(Mornington Peninsula)のバック・ビーチ。メルボルン市内から車で約1時間半の場所です。

ゴールドコーストやシドニーと比べて湿度が低く、乾燥しているメルボルンは、気温が高い日でもカラッとしているのが特徴。日光で肌がジリジリしてきたら海に飛び込んでクールダウンし、海からあがって少し寝転んでいれば体が乾いてしまうのも、海水浴後のベタっとした感覚が苦手な私にとっては嬉しいポイントです。

さらに、40℃以上の酷暑日が減ってくる2〜3月頃には、海水温も十分温まり、ちょうど泳ぎ時に。メルボルンは南極に近いことから海水温は1年を通して低く、初夏はとても冷たく感じるんですよね。

メルボルン市内から一番近いビーチまではトラムでわずか15分。市内で働く人たちは平日でも行きやすく、ビーチはメルボルン・ライフとは切っても切れない関係にあります。

セント・キルダ・ビーチ(St Kilda Beach)は市内からトラムで15分という距離もあって、夏日は海水浴客でごった返します。

それを初めて実感したのは、職場の同僚との何気ない会話でした。
私が勤める会社はあまりお堅くないため、通勤スタイルもビジネス・カジュアルが一般的。ただ、夏日になるとグっとカジュアル度がアップし、中には「これから会社じゃなくて海に行くのでは?」と目を疑いたくなるくらいラフな格好で出勤する人もちらほらいます。

朝のコーヒー・ブレイクで、オージーの同僚とその話題になったところ「たぶん、今日は午後3〜4時には退社して、その足でビーチに行ってリラックスする人が多いんじゃない?」と、ごく当たり前のことのように切り返されたのです。

平日の夕方、ビーチ沿いではビーチバレーをやっている人をよく見かけます。

確かに、夏は夜8時半頃まで明るいメルボルンでは、1日で一番気温が上昇するのは夕方5〜6時にかけて。海でひと泳ぎした後も、夕日を眺めながらリラックスするには十分時間があります。
東京に住んでいたころは、海へ行って遊ぶのも1日仕事だった私にとって、「終業後にビーチでリラックス」という時間の過ごし方はとても斬新に映りました。
それからというもの、私も散歩やランニングがてら、気が向いたときにビーチへ立ち寄るようになったのです。

エルウッド・ビーチ(Elwood Beach)は市内から車でたったの15分。

オーストラリアのビーチにおけるルール

ビーチがメルボルンでの生活の一部となって早10数年。オージーの友人との会話やビーチでの人間観察を通して気がついた、オーストラリアのビーチにおける「ルール」をいくつかご紹介しましょう。

1 大声で騒ぐ、大音量で音楽をかけるのはNG

リラックスするためにビーチに来ている人がほとんどのため、大きな声で騒ぐ集団はもちろん、大音量で音楽を流したりする人はほとんどいません(メルボルン近郊の観光客が多いビーチなど、一部例外はあり)。

それどころか、イヤフォンで音楽を聴いている人もあまり見かけません。やはり波の音に耳を傾けているのでしょうか、ゆったりとした時間が流れています。

2 年齢問わず自由に海を楽しむ

ビーチごとに特徴があるので一概にはいえませんが、個人的に日本のビーチはどうしても若者が多い印象があります。しかし、こちらはどのビーチも老若男女問わず集まっていて、家族連れももちろん多いです。

そして年齢や体型に関係なく、みんな堂々と水着姿になります。紫外線対策は日焼け止めとビーチ・パラソル程度で、水着の上に長袖を羽織っている人はほとんど見かけません。
そんな大人とは対照的に、ラッシュを着てしっかりと日焼け対策している子供は結構いるんです。オージーの友人曰く、「自分はいいけど、肌が弱い子供は紫外線から守らなきゃ」という親心からきている模様。

メルボルン市内から車で約20分の距離にあるウィリアムス・タウン・ビーチ(Williamstown Beach)はファミリー向けのビーチ。

3 犬を放してもOKなビーチも多い

海辺は犬を散歩する人でも溢れています。まるでドッグショーかと思うほどたくさんのワンコがいるので、犬好きにはたまりません。
大抵は犬にリードは付けられていますが、メルボルンには放してもOKのビーチもたくさんあります。

こちらに引越したばかりのころ、夕日を見ながら浜辺で読書をしていたら、こちらに突進してきた子犬に水筒を倒されて紅茶まみれになった私。飼い主は悪びれることもなく、「あら〜やっちゃったわね〜。あなたゆっくり読書されたいなら、隣のビーチがいいわよ〜」とのこと。

そう、そこはペットを放してもOKのビーチだったのです…。ワンコも人間も快適にビーチを楽しむためには、標識の確認はマスト!

季節によって放飼エリアや時間帯が変わるので、最新情報は各自治体のサイトで公開されています。

4 食べ物は持ち込みでピクニック・スタイルが基本(海の家はない)

食べ物は各々でビーチに持っていき、ピクニック・スタイルで楽しむのがローカル流。もしくは、ビーチ沿いに設置されている無料で利用できるバーベキュー台を利用するのも◎です。

準備が面倒という場合は、ビーチの近くにフィッシュ・アンド・チップ屋さんがあることが多いので、そこでテイクアウトしてビーチで食べるのもツウっぽいです。ただ、夏日はかなり混雑するので、事前に電話注文を入れておくとベスト。飛び込みで行くと、最長で2時間待ちと言われたことがあります。

メジャーなビーチなら、目の前にカフェやレストラン、キオスク(売店)があります。

メルボルン市内から車で20分の距離にあるブライトン・ビーチ(Brighton Beach)のカフェ・レストラン。

5 飲酒は禁止だけど…

メルボルンが位置するヴィクトリア州では、ビーチでの飲酒は禁止されており、罰金の対象となります。ただ、ビーチでビールやワインを飲んでいる人をよく見かけるので、周りに迷惑をかけなければ警察も見て見ぬフリをしてくれているのでしょうか…。

友人曰く、集団で飲んで騒いでいたり、または大晦日やオーストラリア・デー(1月26日)などのイベント時だったりしない限り、捕まることは稀だそうです。このアバウトさがオージーっぽいですね。

6 ハザード標識は要チェック!

メルボルン近郊のほとんどのビーチは安全ですが、一見穏やかに見えても、リップ(離岸流)や高波が発生するので決して油断できません。
時期によってはクラゲなども発生するので、ビーチを訪れる人はハザード標識をしっかり確認しています。

余談ですが、ケアンズやゴールドコーストといった人気の観光地は殺傷能力の高いクラゲが、北部のダーウィン近郊の海辺はクロコダイル(!)が生息しているため、遊泳禁止のビーチがとても多いのです。
また、シドニー郊外のビーチも近年サメの目撃情報が増えているなど、おちおち泳いでいられません…。

ケアンズ郊外のパーム・コーヴ・ビーチ(Palm Cove Beach)にあった標識。一応、遊泳できるクラゲ除けのネットで囲われた狭い区域はあるのですが、クラゲもクロコダイルもいるかも…なんていわれたら気持ちも萎えます。

7 ライフセーバーはリスペクトする存在

危険と隣合わせのビーチで頼りになるのが、ライフセーバーの存在。小さなビーチでも、必ずといっていいほど地元のライフ・セイビング・クラブに所属するライフセーバーが安全を見守ってくれています。

ビーチを訪れる人は、安心して遊泳できる区間を示す、赤と黄色の2本の旗の間で泳ぐのが鉄則。
オージーは幼いころから“Swim between the flags(旗と旗のあいだで泳ぎましょう)”と教えられるそうで、大人になってもその教えは守ります。

危険な潮流エリアであることを示す標識と、遊泳可能区間を示す標識。
出典:Surf Life Saving Australia

それでも溺れてしまったとき、体を張って助けてくれるライフセーバーたちをオージーは心からリスペクトしています。友人曰く、「警察官はバカにしてもいいけど、ライフセーバーは絶対にダメ」だとか。

ライフセーバーはライフィーズ(Lifies)という愛称で親しまれています。

ちなみに、オーストラリアにはニッパーズ(Nippers)と呼ばれる5〜14歳の「見習い」ライフセーバーたちがいます。本格的な救命活動というより、物心がつく前から海や水に親しむことを目的に組まれたプログラムなのだそう。

ビーチでトレーニング中のちびっこライフセーバーを見つけると、ついつい口元が緩んじゃいます。

8 ゴミは持ち帰る

幼いときから海の大切さを学んでいるオージーは、大人になってもビーチ限定でゴミ捨てのマナーが徹底されています。
街中や駅では平気でポイ捨てしても、ビーチで出たゴミは必ず捨てるか持ち帰る、それがオージー流。

ブライトン・ビーチまでランニング

「自分たちの財産」と言わんばかりに、ビーチこよなく愛するオージー。私もそのビーチ愛にすっかり感化されています。
先日、湿度もなくカラッと快晴に恵まれた週末に、ランニングがてらにブライトン・ビーチ(Brighton Beach)まで12km走ってきたので、その様子をお届けしましょう。

まず、30分ほどで前述のセント・キルダ・ビーチに到着。まだ午前中とあってビーチは人もまばらでしたが、ビーチ沿いの遊歩道はランナーやサイクリスト、散歩する人でほどよく混み合っていました。

しばらくすると、ローラースケートで走りながらはしゃぐ少女たちとすれ違いました。「2020年にローラースケート…?」といささか困惑していると、すぐ先に答えが。ローラースケートの貸出をしている可愛らしいバンがあったのです。

セント・キルダ・ビーチを中心にローラースケートの販売と貸出をやっているRolla Bae。貸出は1時間25豪ドルから(約1,800円)。

隣町のエルウッドまで来ると、メルボルン市内のビル群が一望できます。水の透明度がとても眩しい。

その先を進むと、オーストラリアでも有数の高級住宅街・ブライトンに差し掛かります。海を存分に目に焼き付けたいのに、次から次へと現れる豪邸に目が奪われてしまいました。

こんな豪邸がゴロゴロ立ち並ぶブライトン。

ウォーキング・ランニング用とサイクリスト用にしっかりと道が分かれていました。人気のコースなんですね。

続いて、子供心をくすぐりそうな、難破船を模した遊具が存在感を放つ公園が目に飛び込んできました。メルボルンに引越してきたばかりのころ、こういう海辺の公園を目にするたびに「なんて贅沢なんだ!」と驚いていましたが、しばらくしてオーストラリアでは決して珍しい光景ではないと気付きました。

ブライトン・ビーチにあるノース・ロード・フォーショア公園(North Road Foreshore Playground)

走りはじめて約1時間弱で、観光客にも人気なブライトン・ビーチ・ボックスに到着。元々は海水浴客用の更衣施設として使われていたそうですが、現在はビーチ・グッズを保管する小屋として個人が所有しています。
2019年に、過去最高額の340万豪ドル(約2,400万円!)と、下手したら家が買えちゃう値段で売れたことが大きなニュースとなりました。

鍵がかかっているので、通常は中を見ることはできませんが、この日はラッキーなことに「隠れ家」として活用しているおじさんを発見。まるで自宅の居間でくつろいでいるかのような空間が羨ましい限りです!

写真撮影の許可を求めたら、「カッコ良く撮ってくれるならね」と粋な切り返しをしてくれたおじさん。オージーは基本ノリがいいので、撮影や取材をしていて楽しいです。

この日、目の前に広がるブライトン・ビーチを眺めながら、「この瞬間をそっくりそのまま切り取って、海の香りと一緒に瓶詰めできたらな〜」と夢見てしまいました。
夏日を迎えるたびに「今年最後のビーチ日和かも!」と、海に駆けつけるメルボルンっ子を見る限り、そう思っているのは決して私だけではないはず。

ということで、残り少ない夏日はせっせとビーチに通って、夏気分を引き伸ばそうと思います。

今回紹介したビーチ

セント・キルダ・ビーチ/St Kilda Beach
エルウッド・ビーチ/Elwood Beach
ノース・ロード・フォーショア公園/North Road Foreshore Playground
ブライトン・ビーチ・ボックス/Brighton Beach Box
モーニントン半島/Mornington Peninsula