「外で会おう」が合言葉、変化するメルボルンっ子の交流

小林夕子 
オーストラリア・メルボルン在住会社員。アメリカと日本で幼少期を過ごした後、日本では映像関連会社に勤務。現在はメルボルンで通訳・翻訳業務に従事している。余暇の楽しみは映画館、美術館、図書館、マーケット巡り。

過ごしやすい気候になる12月頃から、屋外で過ごす人が目立ち始めるメルボルン。冬が長い分、暖かくなると大人も子供も本能的に外に駆け出したくなってしまうのでしょう。ただ2021年夏、まだコロナ禍にあるメルボルンの街の風景は、例年より微妙に異なります。

それもそのはず、ここオーストラリアでは「人と会うときは屋外で」を推奨。これまで友人とのキャッチアップ(近況報告)といえばカフェやレストラン、バーなどの屋内で行うのが定番だった私ですが、それがここにきてちょっとずつ「外」にシフトしつつあるのです。

そこで今回は、これまでとは違うメルバーニアン(メルボルンっ子)の交流の仕方についてお届けしたいと思います。

アウトドア飯の新定番「ピクニック」

カフェやレストラン、バーは屋外ダイニングを充実させることで「安全・安心」をアピールしていますが、まだまだ店に足を運ぶことに抵抗がある人もいます。そんなオージーの強い味方は、アウトドア飯の定番、バーベキュー!週末の公園や川沿い、海辺は、軒並みバーベキューを楽しむグループで賑わっています。

公園やビーチには、必ずといっていいほど無料で利用できるバーベキュー台が設置されています。定期的に清掃が入るのと、バーベキューに関してはオージーのマナーが徹底しているので、焼き台もきれいに保たれています。

ここまでは例年とあまり変わらない「メルボルンの夏の一コマ」なのですが、ロックダウンが終わった2020年暮れからよく見かけるようになったのがピクニック。2021年3月現在、ビクトリア州はまだ自宅に呼べる人数が制限されていることもあって、じわじわと人気が出てきています。

お昼時になると定番ランニングコースに出没するピクニック族。

こんなご時世だからこそピクニックが安心

それなりに事前準備が必要なバーベキューと違って、ピクニックはその手軽さが魅力といえます。
久々に女友達と会うことになり、「じゃあどこで集まる?」と話していたとき、どうもカフェやレストランに集合することをためらう彼女。そこでお互いあまり負担にならない、BYO(Bring your own=飲み物や食べ物を持ち寄る)ピクニックを提案したところ、二つ返事で誘いに乗ってくれたのでした。

当日は、ロックダウン中に会えなかった時間を埋めるように、積もる話に花を咲かせる私たち。そこで彼女から、なんと妊娠したとの嬉しい報告がありました!妊娠中はいつも以上に食に気を使うのは当然、ましてや今はまだコロナ禍。「だから外食をためらっていたのか」とやっと納得しました。
「BYOピクニックだったらお互い好きな物を持ち合えるし、感染の心配もあまりないから嬉しい」といわれて良かったです。

快晴に恵まれた2021年2月、ロイヤル・ボタニック・ガーデン(Royal Botanic Garden)にて。距離を保ちながら段々畑のように連なるピクニック族。

そこでふと私の中で浮上したのが「BYOピクニック」最強説。妊婦さんはもちろん、アレルギー体質の人や、宗教上の理由で食事制限がある人も、自前ならお互い気を遣うことなく楽しめますよね。他民族都市であるメルボルンなら、このインクルーシブな感覚がウケて、ますます人気が出るのではと思っています。

面倒くさがり屋さんにはこんなセットも

ちなみに、「自前すら面倒!」というメルバー二アンに向けて、ここ最近充実してきたのがピクニック用のケータリング。フィンガーフードやスイーツが詰まったピクニック・セットなんて素敵じゃないですか!?

私が行きつけのサウス・メルボルン・マーケット(South Melbourne Market)の近くにある洋菓子専門店「ビブロ(Bibelot)」。オーストラリアでは珍しい繊細な作りが売り。

友人が無事出産を終えて落ち着いたら、出産祝いにこのセットをプレゼントして、赤ちゃんを囲んでピクニックに出掛けたいなと、今から妄想しています。

ヤラ川の新定番「水上ピクニック」

公園に集まるピクニックのほかに、最近注目を集めているのが「水上ピクニック」。ヤラ川沿いをランニング中、ボート上でワイワイとお酒や軽食を楽しむグループを見かけるたびに「私もやりたい!」と羨ましく見ていました。

定員8名(操縦者含む)の小型ボート。日差しが強い夏のメルボルンでは18〜20時にかけての夕暮れ時の利用が人気です。

ランニング仲間の同僚たちにその話をしたら、みんなも気になっていたようで、その場でヤラ川での水上ピクニックの開催が決定!ここからはそのときの様子をご紹介します。

憧れの「船遊び」を初体験

今回利用したのは「あなたが船上パイロット(Be your own captain)」が売り文句の、ゴー・ボート・メルボルン(Go Boat Melbourne)。船舶免許なしでボート貸し切りOK、持ち込みOK(お酒・食べ物)が人気のサービスです。
1・2・3時間のコースのうち、今回は2時間コースを選択。200豪ドル(約16,000円)と、8人で割り勘すればお手頃価格なのも魅力。

乗り場はメルボルン中心街から徒歩10分程度とアクセス抜群。当日は暑過ぎず風もないボート日和でした。

出発前に3分程度の安全ビデオを視聴し、同意書にサインしたら準備完了。そんなアバウトでいいのか…と一抹の不安は残りつつも、同僚の操縦を頼りに定刻18時に出港しました。

最初は恐る恐る操縦していた同僚ですが、程なくして要領を掴んだ模様。行きつけの水上バーの脇をスイスイ通り過ぎるたび、一気にテンションが上がるその感覚は、ライド系アトラクションに似ています。

行きつけの水上バー その1. ポーニーフィッシュ・アイランド(Ponyfish Island

行きつけの水上バー その2. アーボリー・アフロート(Arbory Afloat)。もったいない気もしますが、このお店は例年夏が終わるたびに解体され、完全に撤去されます。

見慣れたはずの風景が、水上からだといちいち新鮮に見えるとあって大はしゃぎするわれわれ。少し落ち着こうということで、持ち込んだお酒と、ピザなどのおつまみをテーブルに広げて、宴会をスタートしました。
ここでその写真を披露したかったのですが、食べ散らかしたかなり残念な写真しか手元になく…。今回は初めてで不慣れだったこともあり、次はこれ↓くらい気合いを入れたいな、と思っています。

宴会に夢中だった私たちは、かなり速度を落として運転していたこともあり、このあたりからカヤックにガンガン追い抜かれるハメに。そこで思い出したのが安全ビデオで紹介されていた「水上交通ルール」です。例えば、車道は左側通行なのに、水上は右側通行であることや、追い抜くときはより小さい船に右側を譲る、といったような。ただ、私たちに限ってはカヤックに追い抜かれるばかりで、追い抜くことは1回もありませんでした。

艇庫付近はその日の練習を終えたカヤックで混雑していました。

「水上から」見えたもの

上流に向かうにつれ、メルボルン中心街(CBD)の喧騒から離れて心地良い静けさが広がっていきます。そんな中、ランニング仲間でもある同僚と「こんな木あったっけ?」と盛り上がったのが、こちらの朽ち果てた大木。

こういった木は倒木防止のため根こそぎ抜かれることが多いので、このような姿で残っていること自体が珍しいです。

これまでのランニング中に気に留めるたことはなかったのですが、地上から水上に視点が変わるだけで初めて見る景色が広がるんですね。それからというもの、ランニング中にこの木を通り過ぎるたびに、この日の思い出がよみがえり、すこーしだけ足取りが軽くなります。

また、橋に名前がついていることに改めて気が付いた私たち。こちらのモーレル橋(Morell Bridge)は「欄干の文様が繊細で素敵だな〜」と、いつも愛でながら走っていましたが、空を背景に見上げる欄干はまた一味違いました。

こちらがそのモーレル橋。

レース編みっぽい欄干の文様に、いつも目を惹かれます。

見知らぬ人とのやりとりに癒される

ここまで来るとお酒もいい感じに進み、メローな音楽に身を委ねてみんなリラックスしきっています。時間を忘れて、他愛ない会話を楽しむこと1時間半、気付けば夕暮れ時です。

夕日を眺めながら飲むワインは格別!

急いでUターンし、発着場のあるCBD方面に向かいます。その途中、前述のアーボリー・アフロートの脇を通り過ぎる際、われわれに向かって店のお客さんたちが手を振ってくれました。それがたまらなく嬉しくて、必死に手を振る私たち。

ここ最近、「見知らぬ他人」とこういった瞬間を共有できることがすごく嬉しく感じます。「きっとロックダウンで長らく人に会えなかった後遺症だね」と同僚たちと笑いながら、発着場を後にしました。

メルバーニアン、ただいま「外」でリハビリ中

長いロックダウンを経験したメルバーニアンの中には、コロナ前と同じようなシチュエーションで親しい家族や友人とキャッチアップすることに抵抗がある人もいるはず。それでも会いたい――今回は、そんなジレンマを抱えるメルバーニアンの「心のリハビリ」にぴったりなピクニックを中心にご紹介しました。

人とのふれあいの場は、今後しばらく屋外が中心になると思いますので、これからもおもしろいことや新しい動きがあったら紹介していきたいと思っています。

それでは皆さん、Stay safe!

本文中の為替レート:1豪ドル = 82.13円