まだまだがんばります、街角の本屋さん

小林夕子 
オーストラリア・メルボルン在住会社員。アメリカと日本で幼少期を過ごした後、日本では映像関連会社に勤務。現在はメルボルンで通訳・翻訳業務に従事している。余暇の楽しみは映画館、美術館、図書館、マーケット巡り。

吹く風が日に日に冷たさを増すメルボルンからお届けしております、皆さんお元気ですか?日本は梅雨入りし、これから蒸し暑さが増す時期ですね。それとは逆に、メルボルンは秋も深まって、冬の気配が見え隠れしています。最近では、夕方に会社から帰宅するとすでに外は真っ暗なので、ランニングは週末までお預けになることが多くなりました。

紅葉も終盤にかかり、冬支度を始める木々たち。ボタニック・ガーデンから望むメルボルン中心街(CBD)。

オーストラリア最南端に位置する都市・メルボルンは、距離的には赤道よりも南極が近いため、南から吹く風は冷たく、北風は暖かいという、北半球と真逆の現象が起こります。この南風がなかなかの曲者。吹き荒れると一気に体感温度が2〜3℃下がるため、週末の天気予報で「強い南風」と聞くと無理に外出せず、家にひきこもることにしています。だって、ダイニングテーブルの隅に積み上げている本を読み進める絶好のチャンスですから!

メルボルンの住宅の照明は大概薄暗いため、本を読むにはランプが必須。我が家では、1年中出しっ放しのビーチチェアが読書の際の定位置になっています。

私が「書店」で本を買う理由

「積み上げる」でお気付きかと思いますが、電子書籍が世の中を席巻するこのご時世、私はいまだに「書店で本を購入する」というアナログな行為が止められない部類の人間。自宅マンションの本棚の限られたスペースを考えたら、電子書籍のほうが断然合理的なのはわかっています。ですが、好きな作家さんの小説や画集・写真集は、どうしても装丁やフォント、紙の質感を楽しみたいもの。その場合も、オンライン・ショッピングで購入したほうが手っ取り早いし安いですよね。しかし、それでも私が書店に足を運ぶのは、単純に「本屋という空間が好き」という以外に、オーストラリアの郵便配達事情と住宅事情の相性の悪さも関係しています。

ロンドン編を執筆していらっしゃるライター・宮田華子さんの昨年の記事を読みながら、「あるある、そうなのよね〜」と何度も心の中でつぶやいていた私。オーストラリアの残念すぎる郵便配達事情は、親譲り(オーストラリアはかつてイギリスの植民地だった)であることを初めて知り、妙に納得しました。

結論から言うと、豪州郵便(Australia Post)の小包配達は一発勝負です。つまり、1回目の配達時に不在の場合、ポストに不在票が投函されるだけで、便利な再配達なんていうサービスは一切存在しません。不在票を持って保管先である最寄りの郵便局にわざわざ取りに行かなくてはならず、しかも平日9時〜17時の営業という、会社勤め人泣かせの窓口。便利で魅力的だったはずのオンライン・ショッピングが、急に色褪せる瞬間です。コンシェルジュが常駐しているマンションでは一時預かりなどで対応してもらえるそうなのですが、私が住むマンションや一軒家では、一律でこの対応となります。

まだメルボルンに来たばかりの頃、クリスマスに間に合うようにと、余裕をもって1ヵ月前にオンラインで発注した本がぎりぎりになっても届かず、焦った経験があり、今は近所の書店一筋。オンラインで買うよりも1〜2割程度高くつきますが、配達のハラハラ・イライラ感を思えば、書店で取り寄せてもらうことで生まれる店員さんとのちょっとした会話や、ワクワクしながら入荷を待つまでの時間はかけがえのないものです。

とはいうものの、オーストラリアも日本と同じく、年々書店数は減少傾向にあります。私が10数年前にメルボルンに来た当時は、中心街(CBD)や郊外には米国資本の大型書店ボーダーズ(Borders)が店舗を構えていたのですが、2011年に経営破綻して間もなく、豪州全土のボーダーズ書店が姿を消しました。今回は、そんな逆風にさらされながらも、辛抱強く生きながらえている、お気に入りの書店を2つご紹介します!

街にひとつは絶対欲しい「近所の本屋さん」

ひとつめは、メルボルン中心街(CBD)の南に位置するサウス・メルボルン地区(South Melbourne)にある独立系書店「コベントリー・ブックストア(Coventry Bookstore)」。CBDからトラムで5分足らずとアクセスも抜群な上、サウス・メルボルン・マーケット(South Melbourne Market)の斜向かいという立地もあって、マーケットが開いている日(水・金・土・日)は特に買い物客で賑わっています。

こぢんまりとした店構えに映える、カラフルな風車のスタンドが目印。

中に入ると、狭い店内に隙間なく並べられた本たちが出迎えてくれます。目についた本を手に取っていると、BGMの心地良いジャズと相まって、ついつい時間を忘れて長居してしまうこともしばしば。私が初めて訪れたとき、不思議な懐かしさと居心地の良さを感じたのは、店員さんの人柄もあるのだと思います。いつ行ってもお客さんと会話したり、本を紹介したり、忙しくも楽しそうに接客している彼ら。私にも毎回必ず「何かお探しですか?」と程よい距離感で声をかけてくれます。

アート、建築、料理本も多く、ギフトに困ったときに立ち寄るお店のひとつです。

店の奥に進むと、児童書がぎっしり並んだカラフルな小部屋があるのも、ここの魅力。友人の子供への贈り物を探しに足を運ぶことが多いのですが、子供の性別・年齢・好みをざっくり伝えると、ささっと2〜3冊おすすめしてくれます。店主のおじさんはもちろん、若い店員さんのおすすめでもあまり外れたことがないので、贈る側としてはとても安心できるんですよ。

児童書のコーナーは、「ドクター・スース」など定番作品から新刊まで幅広い品揃え。なんとなくジェンダーフリーの作品が多い気がします。

さらに、この書店にはとても良いサービスがあります。それは、贈り物を受け取った本人が希望すれば、別の同額の商品と交換できるよう、購入日と本のタイトルを明記したショップ・カードを商品と一緒に渡してくれること。オーストラリアでは、「もらったプレゼントが気に入らなかったから、他の商品と交換してもらった」なんてことが日常茶飯事で、贈り物を受け取った人が後日交換できるよう、どんな店でも金額非表示のレシートを発行してくれるんです。しかし、その味気のないレシートをプレゼントと一緒に渡すのは、少し抵抗が…。その点、ここでは「書店オリジナルのショップ・カード」に「手書き」で対応してくれるという、贈る側としてはとても嬉しい配慮があるのです。そのサービスについて店員さんに聞いたところ、「子供への贈り物で、同じ絵本をもらってしまった」という親御さんからの声を聞いて始めたサービスなのだとか。なるほど、リピーターが多いのも頷けます。

店に入ってすぐ左には新刊がずらり。店主の推薦書が書かれた黒板をチェックするのがささやかな楽しみです。

オーストラリアでも人気のある、村上春樹氏の新作「騎士団長殺し」はたっぷり在庫が用意されていました。ロンドン編で紹介されていたイギリス版と同じ装丁の英語版、辞書並に分厚いです。

余談ですが、オーストラリアの書店は雑誌類の取り扱いがないため、店の棚は書籍ばかり(雑誌類はニュース・スタンドと呼ばれる新聞紙を売るキオスクで販売)。その代わり、どの書店でも必ず種類豊富なカード類が販売されています。ギフトとして本を贈る習慣が根付いているのでしょう。そういえば、コベントリー・ブックストアでは、クリスマスが近付くと店前の風車スタンドの横にギフト包装専用のスタンドが設置されます。真夏の眩しい日差しを浴びながら(南半球なのでクリスマスの時期は真夏!)、せっせとラッピング作業に勤しむ学生アルバイトの姿は、一種のクリスマスの風物詩になっています。

雑貨も充実したハイブリッド型書店

次にご紹介するのは、CBDのど真ん中に位置する「ディモックス(Dymocks)」。併設されているカフェが、週末でも意外に空いていて居心地がいいので、CBDでのショッピングに疲れたときや雨宿りのために立ち寄ることが多いです。

ディモックス・メルボルン店は、ショッピングセンターの地下のワンフロアを占拠。エスカレーターを降りて右手にカフェ、左手には雑貨売り場が。

ディモックスの創設は遡ること140年前(!)、1879年にシドニー中心街(CBD)に1号店がオープンしました。Australian Owned(豪州産)にこだわり続けた結果、1980年代後半にフランチャイズ化。現在はオーストラリア全土に60店舗を構え、書籍以外にも雑貨やおもちゃ、文具も販売し、メルボルン・シドニー店はカフェも併設しているハイブリッド型書店です。

平日は周辺のオフィス街で働く会社員で賑わうそうですが、週末は人もまばらな穴場スポット!

オーストラリアでも人気のフリーダ・カーロや、オージーの絵本作家のイラストをフィーチャーした雑貨。

私が訪れた日は、ちょうど「母の日」フェアを開催中。文具コーナーはカラフルなノートや日記帳がぎっしり。

日本から観光で来られた際、お土産に困ったらぜひ一度足を運んでみてください。

この書店で、最も売り場面積を占めているのが旅コーナーです。旅好きが多いオージーらしいラインナップで、中でも旅行ガイドブックの定番「ロンリー・プラネット」の棚がひときわ目立っていました。

「ロンリー・プラネット」の本社が近くにあるせいか、半端ない品揃えです。

児童書も多くありますが、コベントリー・ブックストアと比べるとヤングアダルト向けの書籍がとても充実しています。一方、ティーン向けの書籍コーナーに足を運ぶと、飛び込んできたのが「Love Your Body(自分の体を愛そう)」というポップ。人種も体型も多岐にわたるオーストラリアだからこそ、「他人と違う自分を受け入れる」というメッセージをローティーン向けに発信している事実に、少し嬉しくなりました。

作者はメルボルン在住の25歳の女性。彼女のサイン入りです。

ほかにもおすすめしたい書店はたくさんありますが、今回は私が通い続けている店の中でもお気に入りの場所をご紹介させていただきました。年々、メルボルンの街角から姿を消す書店。なくなってから「もっと通っていれば…」と後悔しないよう、今日も私は書店に入り浸ります。

今回紹介した書店:

コベントリー・ブックストア Coventry Bookstore
265 Coventry Street South Melbourne, Victoria 3205 Australia
https://www.coventrybookstore.com.au

ディモックス Dymocks
Lower Ground Floor, 234 Collins Street Melbourne, Victoria 3000 Australia
https://www.dymocks.com.au/stores/vic/dymocks-melbourne