ロンドンも今年は「猛暑」です。

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

皆さま、こんにちは。暑すぎる日々が続いていることと思います。体調崩されていないでしょうか? 厳しすぎる猛暑、洪水、災害等、ニュースを見ながら心配しています。

ロンドンも今年は「猛暑」です。

実はロンドンも今年は猛暑です。ここ数年は暑い夏と涼しい夏が交互に来ていますが、今年は私がロンドンに来て10数年でもっとも暑い夏です。ロンドンらしからぬ快晴の日が多く、30度超えの日々が連日続いてるのですが…と書いたところで、「えっ!? 30度? そんな程度?」と思われるかもしれません。確かに体温越えの日もある日本に比べたら生ぬるいですよね。気温だけ見ればそうなのですが、イギリスはこれまで「冷夏が当たり前」だったため暑さに耐えうるインフラになっていないという点が問題なのです。

こちらは5月の写真ですが、今年は春先から暑かったです。4月に29.1度を記録し、70年ぶりに4月の最高気温を更新したのがニュースになりました。これで終わるかと思いきや5月も暑さは続き、イギリス過去100年の観測史上、もっとも暑い5月として記録されることに。以降、ずっと暑い日々が続いています。

イギリス気象庁の統計をみると、1981~2010年のロンドン(グリジッジ地区)7月の平均・最高気温は23.4度、最低気温は13.7度とのこと。今年の暑さを考えると「こんなにロンドンって涼しかったっけ?」という印象です。本来はこの平均気温ぐらい涼しく「真夏日は年に数日」という年が多かったので、いまだにイギリスはクーラーが標準装備の国ではありません。

窓が開かないタイプの高層ビルやデパート、チェーン展開しているカフェ、飲食店にはクーラーが設置されていることが多いですが、クーラーのないお店や施設もたくさんあります。そして駅や電車の中、地下鉄などの公的な場所に十分な冷却システムが整っていません。夏日には地下鉄が蒸し風呂状態になるため、改札に置いてある掲示板に「水のボトルを持って外出しましょう」と告知されているのをよく見ます。

そして住宅にはクーラーがついていないのが基本です。扇風機を所有している家は多いですが、一般家庭でクーラーがついている家を今まで見たこがありません。電気屋さんでもクーラーは販売されていませんが、こうも暑いと日本の「クーラー冷え冷え」が本当に懐かしくなります。熱帯夜にクーラーなし…はまあまあキツイです(涙)。

アイスティーを作っても、写真を撮っている間に氷がどんどん溶けてしまいます。

我が家は窓が多いので風は通りますが、それでも30度以上気温が上がる日は家で仕事をしているとPCのキーボードが汗で湿ってきます。そんな時は近所のクーラーがあるカフェにパソコン持参で逃げ込みます。近くにクーラーのあるカフェがあって本当に良かった(涙)。数日に1度はカフェが仕事場になっています。

我が家でアート作品の撮影!?

住宅事情に関係することなのでつい天気の話が長くなりましたが…ここからが本題です。先日(6月のことですが)我が家でちょっと珍しい経験をしました。

友人の前田邦子さんは、ロンドンを拠点に日本古来の防腐剤である柿渋(かきしぶ)と再生紙を使用した作品を製作しているアーティストです。

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邦子さんの作品。柿渋を塗った再生紙にレーザーカッターで切り込みを入れ、作品に成形します。

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独特のうねりが彼女の作品の特徴の1つです。

イギリス内外のエキシビションで展示される等活躍の場を広げている彼女ですが、7月に開催されるアートフェアのカタログ用に「作品をインテリアの中に置いた写真を撮影したい」ということで、我が家の居間を使い、作品の撮影をしたのです。

当日、作品数点を抱えて我が家にやってきた邦子さん。その場にある家具や小物を足したり引いたり移動したりしながら、色を合わせてさまざまな角度から手際よく撮影していきました。かなりのカット数を撮影したので半日以上かかりましたが、普段見慣れた我が家の「別アングル」や光の入れ方など、私にはない撮影ポイントを邦子さんのお陰で発見できました。

ドライフラワーや「箱庭ガーデン」の植木たちをいろいろ組み合わせて、変化をつけて撮影。

その後邦子さんの作品はイギリスのライフスタイル雑誌『Hole & Corner』のオンライン版で紹介されたのですが、なんと、記事に掲載された写真は我が家で撮影したもの(↓『Hole & Corner』のインスタでも紹介されました。)!

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ワタクシはライターなので「自分で撮影した自分の家の写真が、自分が書いた記事に登場する」ことはよくあります。この「リズム」さんの記事もそうですよね。でも自分でない誰かのために我が家を提供し、そしてその写真が媒体に掲載される…というのはなかなかないことです。この「プチ・フォトスタジオ」体験、ちょっと楽しい出来事でした。

6月は“オープンスタジオ”の季節

この撮影からほどなくして、邦子さんが作品を制作しているスタジオ(工房)に行く機会がありました。邦子さんのスタジオがある建物が丸ごと公開される「オープンスタジオ」というイベントが開催されたからです。

邦子さんは広い部屋を数人のアーティストでシェアしています。

イギリスには「建物全部がアーティストのスタジオ集合体」という場合が多く、数名~100名以上が同じ建物や敷地内に作業場を持ち、製作の場としています。「オープンスタジオ」は入居しているアーティストが製作の場を公開して作品を展示し、同時に作品の販売も行うイベントです。年に2回、6月と12月に開催するスタジオが多く、12月はクリスマスプレゼントを買うために人々が詰めかけますが、6月はもう少しリラックスした「夏のアートイベント」といった雰囲気です。(各アーティストの作業スペースも「スタジオ(またはワークショップ)」と呼び、建物全体、つまりスタジオの集合体のことも「スタジオ」と呼ぶので紛らわしいのですが。)

邦子さんのスタジオがある「Kingsgate Workshop」。閑静な住宅街West Hampsteadにあるビクトリア時代の建物です。100名以上のアーティストがここを拠点に活動しています。

この日は建物のあるストリートも小さなお祭りをやっていて賑やかでした。

入居しているアーティストは画家、陶芸家、ジュエリー作家、テキスタイル作家、オブジェ作家などさまざま。ランプシェードやタイル、カーテンやクッション用のテキスタイル、食器等、インテリア&ライフスタイル関係の作品も多く、日々かなりの時間を「家を何とかしたい!」と思い続けているワタクシにはワンダーランドです。

また各スタジオはアーティストによって雰囲気はまったく異なります。それぞれに個性があって見ているだけで楽しく、インテリアのヒントになることもあります。

タイルやプレートなど、涼しげなガラス作品が並んでいたスタジオ。テーブルに果物が見えますが、ちょっとしたおつまみや飲み物が置いてあるスタジオも多かったです。

今回のオープンスタジオでは、邦子さんが柿渋を使った染色と絞りのワークショップを行ったので参加してみました。

布に絞り用のステッチを入れ、柿渋で染める約1時間のワークショップでした。こうしたワークショップも人気です。

「他では出会えない作品」を発見できるよろこび

毎回オープンハウスに行くと、必ず新しい発見やアーティストとの出会いがあります。大いに刺激を受けるので「次のオープンハウスの時期には、できるだけたくさんのスタジオを巡りたい!」とかなりの鼻息で思うのですが、現実は1時期1か所がせいぜいの怠け者のワタクシです。しかし今回はもう1か所、ロンドン中心部Holborn地区にある「Cockpit Arts」のオープンスタジオにも行ってきました。

クッション等、インテリアに使用するテキスタイルを製作しているデザイナーのスタジオ。

こちらも100人以上のアーティストが拠点を持つ大きなスタジオ集合体です。夕方から始まったプレビュー(前夜祭なもの)に行ったのですが、21時の閉館時間までたくさんの人で賑わっていました。(夕方から夜にかけて撮影したので、写真がすべて暗めでごめんなさい。)

セラミックで製作された室内装飾用オブジェ。

キャンドルスタンドや食器を製作している「Luna Lighting」の展示スペース。キャンドルを日常的に灯すイギリスでは、キャンドル関係の品は人気です。

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こちら(↓)はイラストレーター兼プリントメーカー(版画家)のルース・マーチンさんのブース。ワタクシは「紙もの」に目がないので、ややコーフン気味に作品を見ていたら、彼女に話しかけられ少しおしゃべりしました。

ルース・マーチンさん

デパートやステーショナリーショップで販売されているちょっとキッチュなイラストのポストカードやグリーティングカードの製作を主としているそうですが、毎回オープンスタジオでは紙で製作したオリジナルのおもちゃやオブジェ、豆本等も販売しているそうです。「すべて手作業で製作しているので、製作に時間がかかる作品は大量に作ることができません。なので(おもちゃや豆本等は)少しだけ製作してオープンスタジオで売るのを楽しみにしています」とのこと。

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楽しくおしゃべりした後、棚に置いて飾ることができるタイプの可愛い豆本を1つ購入しました。

折りたたむと手のひらに収まる大きさの豆本がいろいろ。プレゼントにも喜ばれそうです。

こんな風に「ここだけで買える作品」に出会える場所であることもオープンスタジオの醍醐味です。

ロンドンには無料で訪れることができる美術館やギャラリーがわんさかあります。しかしオープンスタジオはアーティストや作品をより身近に感じられるイベントであり、大抵の場合は入場無料です。「製作の現場も見てみたい」「他では買えない、ユニークな作品を探している」という方は、ロンドンに旅行に来た際にぜひ訪れてみてください。オープンスタジオの開催情報はSNSなどで告知されています。

厳しい暑さがまだまだ続くと思います。どうかご自愛ください。また来月お目に掛かります!